教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/19 BSプレミアム ザ・プロファイラー「春日局」

 今回は家光の乳母である春日局。重要人物であるために歴史番組には必ず登場しており、ヒストリアなどでも何度か扱われているが、最近でも「にっぽん!歴史鑑定」で扱われており、正直なところ今回の内容はその番組とかなり被っている。

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謀反人の娘から家康の孫の乳母に

 春日局ことお福の生涯を語る上で重要なのは、彼女は明智光秀の重臣の斉藤利三の娘であったと言うこと。彼女が4才の時に本能寺の変があって、最終的に斉藤利三は謀反人として処刑されるので、それまでの姫として何不自由ない生活から、謀反人の一族としての極貧生活まで転落することになっている。

 彼女はその後、親戚の公家の家に奉公に出てそこで教養を身につけることが出来て、その後に稲葉正成に嫁ぐのであるが、この稲葉正成が主君の小早川秀秋とそりが合わずに解雇され、その後は旦那はプー太郎。それにも関わらず女だけは囲うような状況だから、当然のように夫婦仲は最悪。そんな時に徳川家が竹千代の乳母を募集しているという話を聞いた彼女は、次男と三男は親に預けて長男を連れて乳母に応募したらしい。家康が斉藤利三を高く評価していたことから、彼女は乳母に採用される

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春日局像

 なお家康はなぜか明智光秀の縁者を重用している。この辺り、明智光秀と徳川家康の間で本能寺の変に纏わる密約的なものがあったのではと疑う所以でもあるのであるが(もしそうだったとしたら、神君伊賀越えは壮大なやらせということになるが)

 

竹千代に愛情を注ぎ、命がけの行動で彼を将軍位につける

 竹千代の乳母になったお福であるが、竹千代は内気な上に病弱と次期将軍として危ぶまれるところがあった。そこでお福は竹千代に自分の長男を小姓としてつけて、相談相手を務めさせたという。また食の細い竹千代のために七種類の飯を用意したという。こうやって何とか竹千代は無事に成長していく。

 しかし秀忠の正室のお江が弟の国松を溺愛していたこともあり、国松の方が次期将軍にされるのではという噂が周囲で囁かれるようになる。実際にお江はそのつもりだったようだし(竹千代を暗殺しようとしたとの噂まである)、お江に頭の上がらない秀忠もかなり引っ張られていた。竹千代はそんな境遇をはかなんだのか自殺未遂までしたらしい。そこでお福は大胆な行動に出る。処罰を食らう危険を冒して家康に面会して直談判したのである。その後、家康は江戸に上ってそこではっきりと竹千代を次期将軍として世に示すことになる。

 

家光のために大奥を整備

 こうして三代将軍家光が誕生した。家光は精力的に政治に取り組んだが、お福の悩みは尽きなかった。家光の後継者の問題である。家光には公家出身の正室がいたが、その仲はあまり良好ではなく(家光が女性に関心がなかったという噂もあるが、端的に言えば家光はマザコンだったのは間違いない)、子は生まれていなかった。そこでお福は家光の好みそうな女性を側室にスカウトすると共に大奥を整備する。そしてお福が町中でスカウトしたお蘭という女性が家光に気に入られ、無事に男子を出産する

 なお家光が天然痘で命に危機に瀕した時、お福は薬断ちの誓いを立てており、その後に家光が回復してもその誓いを生涯守ることになる。なおお福の春日局という称号は彼女が権力を持ってから朝廷から与えられたものであり、春日局とは本来は天皇を産んだ母の称号とのことで、将軍のそれも実母ではなくて乳母に与えられるというのはかなり異例のことである。恐らくそこには家光の働きかけもあったのではないかと思われる。

 大奥の制度も整えて家光の治世を見送った彼女は60代で病に倒れている。薬断ちの誓いを守り続ける彼女に薬を飲ませるため、家光は徳川家の家宝である曜変天目まで持参したらしいが、それでも彼女は薬断ちの誓いを守ったままこの世を去る。徳川家の体制を奥向きから支え続けた女性の最後であった。

 

 まあ偉大な人物であったのは間違いないです。竹千代の乳母に応募したのは間違いなく野心によるものだったと思われますが、実際に竹千代の面倒を見始めてからの彼女は竹千代の実母のように愛情を注いだのは間違いないです(そのせいで家光は家康と春日局の間の子という俗説まで出た)。

 一方の家光という人も、実母に疎まれて本当の意味で信頼できる相手は限られていたのかも知れません。彼が心から信頼したのは、乳母の春日局と、異母弟である保科正之ぐらいだったのかも。

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 なお家光と将軍位を争った国松こと忠長は、後に家光にも疎まれ、その乱行などの責めも負って28才で自刃という悲惨な最期を遂げています。最後まで「自分が将軍になるべきだった」という思いが捨てられなかったようで、その思いを煽ってしまった母の江の責任と罪は重いとも言えます。彼があくまで兄を立ててサポートに徹するような人物だったら武田信繁のように名将として名を残した可能性もあるのですが。なお彼の息子とされているのが松平長七郎で、長七郎を主役とした小説が里見浩太朗主演でドラマにもなった「長七郎江戸日記」です。

 

忙しい方のための今回の要点

・春日局ことお福は明智光秀の家臣で謀反人として処罰された斉藤利三の娘である。
・極貧生活の後に稲葉正成と結婚するが、正成は主君の小早川秀秋とそりが合わずに解雇されてしまい、また生活に苦しむ羽目になる。
・徳川家が竹千代の乳母を募集していると知った彼女はそれに応募、斉藤利三を高く評価していた家康の考えもあって採用される。
・お福は竹千代に愛情を注いで育てるが、竹千代の母であるお江は竹千代よりも弟の国松を溺愛し、国松が将軍位を継ぐという噂も出る。
・お福は危険を冒して家康と直談判し、竹千代が次期将軍として定められる。
・竹千代が家光として三代将軍に就任後は、お福は家光の子供を作るために大奥を整備する。
・権力者となったお福は朝廷より春日局の称号を受ける。生涯を家光のために尽くした彼女は60代で病死する。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・春日局は野心家という側面があったのは事実でしょう。今で言うとバリバリのキャリアウーマンです。ただ家光に注いだ愛情は母としてのそれでしょうね。実際に権力を手中にしてからは逆に野心のようなものが見えてませんから。
・この時に彼女が定めた大奥の制度が結局はそのまま幕末まで続くわけですから、彼女は政治家としての構想力もかなりあったと言えるでしょう。そういう意味では彼女の政治力は本物とも言えます。

 

前回のザ・プロファイラー

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