大河関連で明智光秀ばかりになっている昨今ですが、これも大河関連。明智光秀の娘である細川ガラシャこと玉子である。ガラシャについては以前に「にっぽん!歴史鑑定」でも扱っているが、内容的にはかなりダブることになる。
細川忠興との幸せな結婚生活が本能寺の変で暗転
玉子は重臣同士を婚姻で結びつけて結束を図っていた信長の意向もあって、細川藤孝の嫡男の細川忠興の元に16歳で嫁入りする。二人は一男一女を儲けて夫婦仲も良好であったという。玉子は明智光秀の娘として十分な教養を身につけていた上に、美人としても有名であった。
そのような幸せな結婚生活が暗転するのは、玉子の父の明智光秀が起こした本能寺の変による。光秀は細川家に援軍を依頼するが、細川藤孝は出家してこれを拒否、細川忠興も光秀の謀反に怒り心頭の状態。結局光秀は孤立無援のまま敗北、明智の一族の多くが命を失う中で玉子は山奥に幽閉されることになり、そこで3人目の子供を出産する。
このことについては先の「にっぽん!歴史鑑定」では本音では玉子に惚れていた忠興が、彼女を助けるために山奥に隠したというかなり甘い話をしていたが、この番組の見方はもっとドライで、万が一明智が勝利して天下を取った時のためのカードとして生かしておいたとの見方である。まあ蓋の勢力が争った場合には、この時代の武将は両天秤をかけるのは当たり前なので(むしろそれをしない奴は馬鹿)、そういう計算が働くというのはリーズナブルではある。
細川家に戻っての苦しい日々の中でキリスト教に入信
この後秀吉が天下を取り、忠興は玉子との復縁を許される。玉子は大阪城下の細川邸に正室として帰ってくる。ただ彼女は屋敷で厳重に監視されて自由のない状況だった。これは忠興が他の男(特に秀吉)の目を気にしての嫉妬だという説などもあるが、彼女を守るためでもあったとも言われている(この辺りの忠興のスタンスも今ひとつハッキリしない)。ただ彼女は自由もない上に、謀反人の娘という視線にさらされることになり、ストレスで精神に変調を来したこともあるようだ。
この頃に彼女が出会ったのがキリスト教である。謀反人の娘である彼女としては、仏教などの教えでは恩人を裏切った者は地獄行きであるが、キリスト教はあくまで神に対して裏切りを働くかどうかが大事で世俗の権力とは無縁であるということは救いとなった。またキリスト教が一夫一婦制を唱えているのも彼女には都合が良かった(忠興は側室を持っていて、彼女はそれに対する嫉妬も抱えていた)。こして彼女はキリスト教に惹かれていく。そして忠興が留守の間に修道士と面会、さらには後にキリスト教に入信する。この時にガラシャの名前を与えられている。
関ヶ原の合戦で人質を拒んで自害する
そして関ヶ原の合戦。忠興は徳川家康について上杉討伐に出陣する。その際に彼女に対し、「事が起きれば武家の妻として恥ずかしくないように計らえ」と言い残している。これが後に彼女を縛ることになる。
家康が上杉討伐に向かった隙を見計らって石田三成が挙兵する。三成は家康に付いた大名の妻子を人質に取ろうとする。玉子にも大阪城に来るようにとの要請が来る。ここで彼女の選択である。1.まだ戦いが始まったわけではないのでそのまま人質となる。2.逃亡する(他の大名の妻子で逃亡した者も多い)3.自害する。
番組のゲストの大半は2を選んで欲しかったとの意見で、実際に私もそう思うのだが、それは彼女のプライドが許さなかった。またもし逃亡に失敗して捕まるようなことにでもなると、恥をさらすことになってしまって夫の言いつけに背くことになる。既に謀反人の娘という負い目のある彼女としては、細川家の嫁として立派な最期を遂げることしか考えがなったのだろうとのこと。ただ問題となったのは彼女はキリスト教徒であり、教義によって自害は禁止されていること。そこで彼女は家臣に介錯してもらい、屋敷に火を放ってその遺体は完全に消滅させる。
細川家に殉じた玉子
結局は彼女の死は関ヶ原の合戦における最初の犠牲であり、これを細川家から出したと言うことは、細川家にとっては後々非常にアピールの大きいところとなったという。またこの流れで家康が勝利したとさえ言える(この件で三成はビビって人質作戦を撤回せざるを得なくなってしまった)。結局は玉子はその死で細川家を繁栄させると共に、家康の天下も定めたことになるという。
イエズス会の宣教師は密かに焼け跡に人を送って、回収したわずかな遺骨で彼女の葬儀を執り行ったとのこと。
よくよく考えると、彼女の死って殉教じゃないんですよね。殉じたのは細川家に対してであって。そこのところが世間でよく間違われているんですが、何も彼女は棄教を迫られて死んだわけでないんです。たまたまキリスト教徒だっただけで、要は本質はあくまで武家の女性だったというわけ。
磯田氏がチラッと言っていたが、要は彼女のは頭が良くてプライドの高い女性だっただけに、融通が利かなかったのだと思われる。むしろ普通の女性ならこの場はさっさと逃亡している(実際にそうした者が多い)。しかしどうも最初からその選択は考えていなかった節がある。また謀反人の娘と言うことになってから自分を粗略に扱いだした夫に対する当て付けの意志もないでもないような気もする。そういう点では美人で賢くて良い嫁さんだが、男しては扱いにくいという側面もある女性だったんだろう。もし現在の世に生きていればバリバリのキャリアウーマンになっていたんだろうが。生まれた時が悪かったという不幸である。
忙しい方のための今回の要点
・信長の重臣同士を婚姻で結びつけるという意向で、明智光秀の娘の玉子は細川忠興の元に嫁入りする。
・二人は一男一女を儲けて夫婦仲も良かったのだが、明智光秀が起こした本能寺の変で暗転する。
・謀反人の娘となった彼女は山奥に幽閉されることになり、秀吉の時代になってようやく許されるが夫婦仲は微妙な物になってしまう。この時に彼女は救いを求めてキリスト教に入信している。
・関ヶ原の合戦に忠興が出向く時、もしもの場合は恥ずかしいことのないようにと言い残す。その後石田三成の挙兵で彼女は人質に取られそうになるが、それを拒絶して自らの命を絶つ。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・まあ今も昔も宗教とは心に隙間がある時に忍び寄ってくるものです。彼女なんてまさにその例。そう言えば教祖が詐欺罪で捕まったインチキ足裏教の勧誘マニュアルには、病院で信者に勧誘しろと書いてあったとか。自身や家族が病気を抱えて心が弱っている時は、宗教にとってはまさに付けいりどころと言うことらしい。
・そりゃ人生順風満帆で向かうところ敵なしなんて状態の者が、神頼みして神にすがる気なんて起きないわな。当然のように。
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