今回はいささか食傷気味になってきた明智光秀。今回の肝は脳科学者の中野信子氏がアメリカで開発された心理テストを行い、明智光秀の心理を推測するとのこと。今回は普通の番組だったらしないような大胆なチャレンジをするというようなことを磯田氏が言っているが、いや、大胆という意味では既に「光秀は認知症だった」という大胆な説を掲げている番組もあるから・・・。
光秀を性格診断する
今回行ったのは「MMPI(ミネソタ他面人格目録)」という心理調査。566の質問に答えて、その結果から性格を10の要素に区分して評価するという方法。そう言えば私が入社の際にもこれの簡易版のようなものをやらされた記憶がある。私の結果は「内向的で不安定」という危険型になってしまった。同じ分類になったのが100人近くの同期の中で私を含めて3人だったんだが、一応みんなそれなりに無難に社会人をしている(笑)。
ただこの解答を明智光秀をイタコさせて答えてもらうというわけにもいかないので、中野氏が光秀に関する資料を漁って「多分光秀だったらこうだろう」と推測して答えるというのであるが、この時点で「意味あるの?」って疑問は禁じ得ない。なおそのための情報提供に協力したのが「にっぽん!歴史鑑定」の御用達学者の小和田哲男氏であるから、この時点でも何となく無難な結論になっちゃいそうなのが予測が付く。なお小和田氏によると光秀の残された書簡などからは、意外に自画自賛というのが見えるとか。
で、分析結果であるが、やっぱり予想通り10項目いずれもあまり極端なものがないという非常に「無難な」結果になっている。そりゃ他人の選択推測する時に、あまり極端な選択肢って選びにくいわな。この結果から穏やかでバランスの取れた人としているが、そもそも明智光秀が変人だったなんて記録はどこにもない。無理矢理に「衝動的」というのがやや高めと言っているが、そりゃそういう風に誘導したんだろう。
光秀の3つの選択に迫る
次は光秀の足跡を辿って3つの選択に迫るとしている。まず最初は将軍・義昭と織田信長が対立した時に信長に付いたこと。光秀は義昭の家臣として信長と最初に会ったのだが、信長にその能力を見込まれて段々と信長の元で活躍するようになる。なお比叡山焼き討ちにも積極的に参加したとされているが、小和田氏の考えでは比叡山丸焼きにしたんでなく、根本中堂など一部だけを焼いて比叡山を屈服させ、信長の体面を立てつつ叡山も助けたのではとしている。確かに光秀ならそのぐらいの根回しはできそうだ。
そして信長に認められた光秀はついには城持ち大名にまで出世する。しかしその後に義昭が信長と対立、この時に光秀は信長に付くことを決めたのであるが、まあこの選択は両者の力を比べると迷う余地はほとんどなかったんじゃないかと思うんだが。番組でも先ほどのプロファイルからは自我の強い人ではないので、状況のままに信長についたのではとしているが、それは全く同感。
丹波平定時の選択
次は丹波平定の時の選択。光秀は丹波の平定に従事するが、丹波は将軍の権威が強かった地域なので苦労している。実際に丹波平定を目前に将軍義昭の働きかけで、織田に付くことを決めていた国衆が突然に寝返って敗北、近江の坂本上に逃げ帰るという羽目になっている。
しかし光秀には休み暇もなく信長からの命が下る。すぐに石山本願寺との戦いに出陣するが、この時に光秀は体調を崩して寝込んでいる。一時は「光秀は死んだ」という話が出るぐらい状態が悪かったようだが、なんとか復帰する。しかし復帰後も光秀は各地に出陣させられる(すごいブラック職場である)。ここで光秀の選択として、丹波攻略に専念させてくれるように頼むか、あくまで信長の命に従うかだが、結局光秀は後者を選んでいる。丹波攻略の拠点の亀山城を築いてから、自身は各地で転戦しつつ家臣をリモートコントロールで丹波攻略を進めている。
この選択だが、実際には光秀にはこの選択肢かなかっただろう。もし前者を選択していたらパワハラ上司・信長から「こんなことも出来ないのか。無能はいらね。」と捨てられるのがオチ。ゲストの話も「ブラック企業織田家に過剰適応する光秀」という話に大体収斂している。
とうとうぶち切れての本能寺の変
で、最後はいよいよい本能寺の変であるが、この直前に出された光秀の家中軍法には信長の恩義が記されており、この時点で光秀の忠義は揺らいでいないとしている。しかしこの頃から信長は武田勝頼の首に敬意を示さずに蹴飛ばすなど暴虐で増長している態度が現れ始めたとしている。また長宗我部攻略の件で、今まで長宗我部との間を取り持っていた光秀の面目をつぶす形になっており、光秀の中のストレスは高まっていたはずである。先ほどのプロファイルでは本能寺の変の1年前からの光秀の言動に限ると、かなり不安定さが増しており危険な水位になってきているとしている。またこの状態でも信長は光秀の忠誠を疑っておらず、光秀の前にほぼ無防備に近い状態で信長と嫡子の信忠が揃うという状況はまるで「背けるなら背いてみろ」と挑発しているような状況であり、ついに光秀の防波堤が決壊したのではと言っているが、この分析はその通りと感じる。また磯田氏は「信長に対する恐怖から、逆に信長を尊敬しているという表明をしないといられない状況になっていたか、あわよくば信長を油断させたいと思っていたか」と言っていたが、その分析も妥当性がある。さらに私としては、ブラック企業に過剰適応してきた光秀が「自分の選択は間違っていない。信長に付いてきたのは正解だった。」と自らに言い聞かせようとしていたのではないかという気がする。安倍総理をずっと盲信してきた輩が、危機に際して「布マスク2枚」という現実に直面しても「やはり安倍総理しかいない、安倍総理ならキチンと解決してくれる」と悲鳴に近いような安倍支持を熱烈に表明しているようなものである。
以上、明智光秀の心理分析と銘打っていましたが、正直なところそんなに大胆でチャレンジングな内容という印象ではありませんでした。前例のない大型な対策で布マスク2枚だったのと大差ありません。
と、それはともかくとして、ゲストがしていた明智光秀に対する分析は概ね妥当なところだと私も思いました。ある程度年をとってから成功したので、この成功を手放して引退というわけにはいかなかったとか、実際に実力のある人だからかえって無理難題をふっかけられて、その中で苦労する羽目になったとか、最後まで疑問を感じつつもそれでも自分を必死に言い聞かせていたのが、最後の最後でとうとう堤防が決壊したとか。結局はブラック企業に過剰適応したできる社員の悲劇だと思います。まあ私も信長の下で働きたいとは思いませんね。私なんて途中で首にされるなら良い方で、下手したら首をはねられかねない。
忙しい方のための今回の要点
・明智光秀を心理テストであるMMPIで分析したところ、あまり我の強くない穏やかで安定した性格と出たという。
・光秀は義昭と信長の対立の中で信長を選んだことも、丹波攻略で苦労しながらも信長の命に従ったことも、いずれも我の強くない性格からそうせざるを得なかった結果であると見ている。
・しかし本能寺の変の直前では増長して自分を侮るかのような態度を示す信長に対する不安が増してきて不安定に心理状態に突入、そこに信長と信忠がほぼ無防備で揃うという状況の発生で、ついに最後の防波堤が決壊したのではと見ている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・まあ光秀の行動の真意については、彼が本音を記した日記でも発見されでもしない限り、その真相は永遠に闇の中でしょう。意外とあの大馬鹿ドラマ「江」の「なぜ伯父上を殺されたのですか」「分かりません・・・」ってのが真相だったりして(笑)。あっ、これだと光秀認知症説だ。
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