教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

6/11 BSプレミアム 偉人たちの健康診断「越後の竜・上杉謙信 死の謎に挑む!」

戦国最強・上杉謙信の死因について

 戦国最強とも言われていたが、突然死してしまったので暗殺説まであるという上杉謙信。その死の理由に迫る・・・とのことなのだが、そんなものアル中から来る脳卒中で決まりなのではという気がするのだが。なお上杉謙信の死因については以前に歴史科学捜査班でも放送しているが、その際の結論は糖尿病からくる高血圧という結論。まあ妥当なところだろう。

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上杉謙信は糖尿病だった・・・うん、知ってた

 武田騎馬軍団と互角の戦いを進め、手取川では織田軍オールスターキャストをケチョンケチョンに打ち破ったものの、その後に厠で突然に倒れてそのまま亡くなってしまった上杉謙信(突然死すぎて後継者を定めていなかったせいで御館の乱が起こって上杉家は弱体化してしまうのだが)。その死因を探るためにまずは肖像画を紹介している。上杉謙信と言えば一番有名な一般的な肖像画は、上杉神社に伝わる黒頭巾を被った恰幅の良い堂々としてた肖像画である。

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上杉謙信と言えばこのイメージ

 しかし長岡市の常安寺にこれとはことなる肖像画が伝わっているという。なおその画像は「上杉謙信 常安寺」でググったら出てきますので、自分で調べてください。無断引用するわけにもいかないのでここでは省略します。とにかく一番の特徴はその肖像画はやせ細ったものである・・・となったところで、もう「上杉謙信は糖尿病を患っていた」という結論が見える気がするのだが、とにかく番組は続く。

 

酒が原因で糖尿病を患った謙信

 米沢に伝える謙信の甲冑によると謙信の体格は、身長158センチで胴回り85.5センチとのことなので、見事なメタボ体型であるという。直江兼続が残した記録によると、晩年の検診はみるみる痩せていったと記されているという。また食べたものを吐いてしまうことが増えたという。さらに謙信36才の時に左足に大きな腫れ物が出来たという。これらから推測される病状は・・・やっぱり糖尿病です。糖尿病の合併症には眼底出血による失明などがあるが、免疫力が低下するので細菌感染が重症化しやすく、腫れ物はこれが原因と考えられる。痩せたり嘔吐となるとこれは糖尿病性ケトアシドーシスというかなり重症化した症状だという。インスリンが働かなくなり、体が脂肪を分解して体重が減少していっている状態とのこと。

 糖尿病の自覚症状であるが、1.尿がたくさん出る・回数が増える 2.のどが異常に渇く 3.だるい 4.食欲はあるに体重が減る といったものがある。と言うわけで日本では1000万人もの患者がいるという。最近は24時間血糖計なんてものがあるという。

 糖尿病の原因となるのは不摂生な生活であるが、謙信の場合は・・・ってそんなもの言われるまでもなく「飲み過ぎだろ」と想像つくが、番組の結論もその通り。謙信は食事は質素であるし、運動は十分なのでそもそも他の原因がない。謙信が残した愛用品に馬上杯というのがあり、戦中にも酒を飲んでいたという。また謙信の時代に酒の革命が起こっている。この時代に今までのどぶろくでなくて諸白という澄んだ酒が製造できるようになったという。この酒はどぶろくと違って保存が効く上に年中造れるので、謙信は年間通じて酒浸りになれるということになったらしい。しかもこの諸白はかなり糖質の多い酒(馬上杯一杯分で角砂糖12個分とのこと)だったらしいので、糖尿病一直線である。醸造酒は糖質が多い上にアルコールが膵臓にダメージを与えるとのこと。私なんて、これで酒を飲んでいたらもうとっくに死んでいると言われている。

 

糖尿病から脳梗塞につながった

 さて糖尿病と突然死の関係だが、謙信の死因は記録による脳梗塞のようである(失語症が出たらしい)という。糖尿病になると脳梗塞の発症が2倍以上になるという。糖尿病で血管の壁が傷つくことで動脈硬化になったり、血液中の糖を薄めるために体が脱水状態になり血液がドロドロになることで血管がつまりやすくなるという。謙信の辞世の句が「四十九年一睡夢 一期栄華一杯酒(49年の生涯は一睡の夢で、この世の栄華は一杯の美味い酒に過ぎなかった)」とのことであるから、死んでも懲りてねえな。まさに酒に飲まれた人生である。ちなみに今なら血栓溶解剤を使用できるので、この時点では謙信は死んでなかっただろうとのこと。そうなっていたらその後の信長の天下はなかった。

 脳梗塞の初期症状だが、典型的なのは半身麻痺。半身の手足がしびれたり、顔の片方がしびれるとか片方の目が見えにくいなどの症状が出るという。そして典型的なのが呂律が回らないというもの。これらの症状が出たら直ちに救急車である。ちなみにこれらの症状が一過性で出ることがあるので、これなどは本格的な発作の前駆症状と考えられるという。

 

謙信の強さの秘密は瞑想にあり

 最後は謙信の強さの秘密であるが、謙信は子供の頃に寺に預けられてそこで義経などの兵法を学んだという。鉄砲の登場で銃撃戦が主流となりつつある中で、上杉軍は接近戦を得意とする特異な軍であったという。そしてそれを支えたのは謙信の的確で迅速な判断力。第三回川中島の戦いでは武田の夜襲を読んで、迅速な動きで武田軍の本陣に急襲をかけるということを行っている。さてこの判断力の由来だが、謙信が常に行っていた瞑想が関係するのではというのが番組の結論。瞑想することで脳のネットワークが良くなるのだとか。判断を司る前頭前野と記憶を司る海馬との連携が瞑想によって強くなるとのこと。瞑想は脳を休ませるということが効果があるのだという。睡眠時に海馬が記憶の整理をするので、これが影響するのだという。

 瞑想の仕方であるが、リラックスして座ってから、目を閉じて(視界の情報を遮断する)鼻呼吸する。そして自分の呼吸を観察する(意識をそこに集中して雑念を排除する)のだという・・・ということは、始終ぼんやりしている奴は判断力が高いのか?

 

 以上、上杉謙信の生涯について。謙信の死因が脳梗塞というのは残っている資料だけでも間違いないですし、その原因は酒の飲み過ぎというのも疑う余地もないところです。ちなみに上杉軍団の強さの秘密は謙信の瞑想による的確な判断力とのことで、これに異論を挟む気はありませんが、アル中で恐怖感が麻痺している指揮官が先頭を切って突っ込んで来るバーサーカー軍団というのは、それだけで相手にとっては恐怖そのものです。まあまともな神経をしていたらそんな軍団を相手にはしたくないでしょう。おかげで流石の鬼柴田でも上杉軍団にはケチョンケチョンにされてます。柴田勝家にしても「なんなんだ、この軍団は?」と感じたでしょうね。毘沙門天の化身と名乗っている謙信自身が一種の生き神様ですから、上杉軍団の戦いは「ジハード」そのものなところもあります。その士気の高い軍団に、謙信の的確な戦術があるんだから天下無敵です。ちなみに第二次大戦の日本軍は決して士気は低くはなかった(大日本帝国のジハードですから)のですが、致命的に指揮官の戦術が欠けていたので兵を無駄死にさせただけでした。それに物量メインの近代戦では士気だけでは戦えません(もし士気だけで戦えるなら、イスラム原理主義者達はアメリカ軍に圧勝しているはずである)。

 ちなみにゲストの東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏が「酒を飲まないのだけど、天下無敵の糖尿病」と言っていたが、何かものすごくシンパシーを感じる・・・。糖尿病になる原因は酒だけでなく、甘いものだけでも体質次第ではなってしまいます。

 

忙しい方のための今回の要点

・上杉謙信は厠で突然に倒れてそのまま死んでしまったのだが、死因は脳梗塞と考えられる。
・謙信の肖像画の中には非常に痩せたものも残っており、それは糖尿病の発病が原因と思われる。
・謙信が糖尿病を発病した原因は酒。謙信の頃にそれまでのどぶろくに代わり諸白という清酒が開発された。この諸白は年中製造できて保存が効く上に非常に糖質の多い酒であり、これを年中愛飲したことが謙信の糖尿病の原因と考えられる。
・糖尿病になると血管壁が傷つき動脈硬化を起こしやすい上に、体が血中の糖分を薄めるために脱水症状になるので血液がドロドロになって脳梗塞を起こしやすくなる。
・上杉軍団の強さの秘密であるが、それは謙信の的確な判断力にある。謙信は瞑想をよくしていたことが知られており、瞑想で脳を休めることは判断を司る前頭前野と記憶を司る海馬との連携を強める働きがあるという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・上杉謙信があの時に死んでいなかったらというのは良く言われることですが、まず間違いなく信長の天下はなかったでしょう。バーサーカー上杉軍団の前にはさすがの織田軍団も分が悪いです。手取川の合戦では織田軍が大量の鉄砲を持っていることを承知の上で、鉄砲が効果的に使えない夜襲をかけてますから。少なくとも武田勝頼のような馬防柵に正面から突っ込むなんて無謀なことはしないでしょう。
・もっとも謙信が信長を討ち果たして上洛したところで、謙信は自分が天下を差配する気なんてなかったですから、結局は実権のない室町幕府が延命することになって、戦国時代が延びるだけでしょう。もっともそうなってきたら、伊達や真田が天下を取るという目も出てくる。

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