20世紀最大級の海難事故
映画にもなった20世紀最大級の海難事故・タイタニック沈没。この手の大事件には付きものだが、このタイタニック沈没についても陰謀説があったりするのだが、それを紹介。
タイタニック号は建造費220億円もかけた豪華クルーズ船で、海の上を行く高級ホテルとも呼ばれていた。また安全面にも最新技術を投入し、15枚の防水隔壁で区分されているので、絶対に沈まないとされていたのである。
1912年4月10日、タイタニック号は2200人の乗客・乗員を乗せて初公開に出航、ニューヨークを目指していた。そして4月14日の夜、ニューファンドランド沖でタイタニックは氷山に衝突、衝突からわずか2時間40分で沈没、乗客乗員の2/3が犠牲となった。
タイタニックの沈没は意図的なものだった?
この事故について45年取材してきたというロビン・ガーディナーが唱えたのが「タイタニックは意図的に沈められた」という衝撃的な説である。しかも沈没したのはタイタニックではないというのである。これがタイタニック陰謀論である。
実際に事故の前後に船内に怪しい動きがあったという。事故の前に先行する船から続々と氷山の目撃情報が届いていたのに、それを報告された船長のエドワード・J・スミスはこの警告をタイタニックを運営するホワイト・スター・ライン社長のブルース・イズメイに渡した。そしてイズメイはその紙をポケットにしまい込んでしまったという。そしてタイタニックはフルスピードの22.5ノットで月もない暗い海の中を疾走したのだという。イズメイがこの警告を無視した理由について、保険金目当てだったのではとガーディナーは推測している。タイタニックには500万ドル(150億円)の保険がかけられていたという。
さらに沈没した船はタイタニックではなく、同型船のオリンピック号だったのではとしている。このオリンピック号は、就航して数ヶ月で過失による衝突事故を起こし、さらにはスクリューの脱落事故まで起こし、船体にかなりの損傷があって大改造をする必要に迫られていたのだという。そこで修理経費のかかるオリンピック号をタイタニック号とすり替えて沈没させたのではというのである。さらにこの計画には黒幕がおり、それはアメリカ金融業界の帝王のJ.P.モルガンだという。ホワイト・スター・ライン社はモルガンの海運会社の子会社であり、彼は実質的にタイタニックのオーナーだったのだという。しかもモルガンは初出航に乗船するはずだったのを直前になって急遽キャンセルをしている。
さらにすり替えの証拠とされる映像がある。建造中のタイタニックと初航海直前のタイタニックの映像を比較すると窓の数が違うというのである。建造途中のタイタニックの窓の数は14に対して、初航海時の窓の数は16になっている。そしてその窓の数はオリンピック号と同じ数であるという。また沈没したタイタニックを調査したところ、タイタニックにはなかったはずのプロムナードがある(オリンピック郷にはプロムナードがある)というのである。
陰謀論を一刀両断する
と、こうやって様々な根拠を並べられると、これが真実のように思えてくるのだが、タイタニックを50年以上研究しているという歴史研究家のダニエル・アレン・バトラー氏がそれを一刀両断する。まず彼が示したのはドックからはじめて海上に出た時のオリンピック郷の写真だが、この時は窓の数は14だったのだという。つまりはオリンピック号もタイタニック号も建設途中で窓が増やされたのだという。さらにはタイタニックにはないプロムナードだが、タイタニックはオリンピックと同じ階にプロムナードはないが、一つ上の階にはプロムナードがあるのだという。
さらに映画「タイタニック」の科学コンサルタントもしたというチャールズ・ペレグリーノ氏によると、海底映像でスクリュープロペラに401の数字が刻まれているのがタイタニックの疑いのない証拠だという。これはドック番号で、となりのドックで建造されたオリンピック号の場合、この数字は400になるのだという。
ではモルガンが出航直前にキャンセルした件であるが、先のバトラー氏によると、これはモルガンがインフルエンザにかかってしまったからだとのこと。当時のインフルエンザはいまよりも恐ろしい病(ちょうど今の新型コロナのようなもの)だったから、キャンセルは当然だという。そして「陰謀論とは都合の良い事実だけを切り取って馬鹿げた主張をするもの」と見事に切って捨ててしまっている。
さらになぜ社長が警告をポケットにしまい込み、危険な海域を猛スピードで進ませたかだが、これは氷山が原因の沈没事故が40年近く起きていなかったため、誰も氷山を危険視していなかったのだからだという。実際にタイタニックより30年前にイギリスのアリゾナ号が氷山に正面衝突して船首が大破するという事故があったが、死者はおらず自力で航行して帰還したという。また1890年にはドイツのノルマニア号は氷山が船体の斜めから衝突したが、浸水さえ起こらなかったという。だから氷山が危険という認識がなく、大西洋航路の最速記録を争っていた当時は、速度を優先して運航していたのだという。
ゲストに意見を聞いているが、客船の船長は「これが陰謀だったら、最早テロだし、大人数を口裏合わせするだけで大変」と言っているし、もう一人の失敗学の先生は「保険会社はそんなのに簡単に欺されるほど甘くない」と言っているし、これはどちらもその通り。それに船の船首は衝突を想定して丈夫に作っているから、かわしきれない最悪の場合には真っ直ぐ突っ込めというのが鉄則だとのこと。タイタニックは下手にかわそうとして右舷をこする形になったのが致命的だったらしい。
タイタニックが短時間で沈没してしまった理由
それでもまだタイタニックに残る大きな謎がある。それはなぜ2時間40分という短時間で沈没してしまったか。実際に沈没まで40時間かかって全員が脱出できたという事故もあったという。最新の装備で万全の安全策をとっていたはずのタイタニックのあまりに呆気ない沈没は謎である。
2017年にタイタニックの沈没について新説が登場して話題になったという。初航海の9日前に撮影された写真があるのだが、船の右舷に影のようなものが写っているのだが、これは船内で起きた火災で船の外壁に出来た隙間から煙が漏れ出しているのだというのだ。つまりタイタニックは出航前に船内で火災が起こっていて、既に外壁に損傷が発生していたというのである。
かなり突飛な考えのように思われるが、タイタニックの燃料は石炭であり、この石炭が火災を起こしていたことは事故後の査問会でも明らかになっているのだという。石炭は適度な酸素と70度以上の熱があれば自然発火して、積み上げた石炭の内部でブスブスと炎が上がるということがあるという。タイタニックの石炭庫は左右に11部屋ずつあり、高さ10メートルの壁の中に1カ所あたり400トンもの石炭が積まれていたという。石炭火災は消火しにくく、燃えている石炭を優先的にボイラー室に運んで燃やし尽くすしか手がない。しかし11人で作業に当たったが、数百トンの石炭の前にはどうしようもなかったという。
この火災は前方から5番目と6番目のボイラー室で発生していたと考えられるという。ではこの火災がなぜ沈没に結びついたか。タイタニックは防水隔壁で16仕切られた船内の4つの隔壁内に水が浸入しても沈没しない設計になっていたのだが、従来の説はこの内の1番~4番までの区画で猛烈な浸水があり、ここにさらに5番と6番にも損傷が起こって想定以上に船体のバランスが崩れたことにより、防水隔壁をオーバーフローした海水が一気に5番6番にまで浸入したというものである。しかしこの火災説は、火災によって防水隔壁が歪んで機能しなくなっており、さらには石炭庫は外壁に接していたことから外壁も損傷していたのではないかとしている。
この時代の船では石炭の火災は日常茶飯事だったらしいが、さすがに法令で火災を起こしたままでの出航は禁じられている。しかしオリンピック号の件で経営が苦しくなっていたホワイト・スター・ライン社は、タイタニック号の出発が遅れることを懸念して事故を隠蔽したのだという。
タイタニックの事故はいろいろ影響を社会にも与えた。当時のイギリスでは浸水対策が万全な船は救命ボートの数は規定の半分で良いというルールになっていたという。しかしタイタニックではそのせいで半分の乗客は最初から救命ボートに乗れなくなっており、結局は2200人の内700人しか助からなかった。そのためにこの後、海運国13カ国が海の安全を守る国際条約SOLAS条約を制定し、乗員乗客が全員乗船できるだけの救命ボートの義務化や流氷監視の義務化などが定められたという。この条約は時代に合わせて現在まで60回改訂されているという。タイタニックの悲惨な事故は、大切な教訓として船の安全性を向上させるために貢献したのである。何よりも「安全に100%はない」ということを世界に知らしめたことが一番大きいという。
なのであるが、日本においてはなぜか原子力発電所だけは100%事故はないということになっていたのである。しかしそれが全く根拠のない嘘であったことは、福島の大きな犠牲によって証明されることになった。にもかかわらず、相変わらず原発利権を死守しようとする馬鹿がいるのには呆れるしかないところである。なお原発が事故を起こさないというのが嘘だと言うことが判明したことで、日本において100%故障しないことになっている機械はオービスだけになってしまった。
タイタニックの場合、当時の最先端の技術で建造した結果、運用側が安全性を過信してしまって油断しまくっていたというところがあるのは明らかである。これは事故のパターンとして昔から言われていることだが、安全装置を万全にすればするほど、操作する者の方に「事故は絶対に起こらない、事故が起こりそうになっても機械の方が勝手に対応する。」という思い込みが強くなり、結果として不安全行動が増えるというのがある。そして安全装置で対処できているうちは良いが、たまたま何らかの理由で安全装置が上手く働かなかった時に大事故につながるというパターンである。これは工場の現場などでよく問題になることである。危険な場所だと分かっていたら、人間は神経を研ぎ澄ませて用心するが、安全性を高めたことで緊張感がなくなって事故につながってしまうのである。この辺りが現代の自動車の運転サポートシステムなどでも問題になっているところであり、何かの時に勝手にブレーキがかかると運転手が過信してしまって、実際に事故につながった事例も出ているとか。
忙しい方のための今回の要点
・タイタニックの沈没事故は20世紀海難事故史上に残る惨事である。
・タイタニックは実はオリンピック号とすり替えられており、保険金目当てで意図的に沈没させられたという陰謀論が存在する。
・しかしこれらの陰謀論の根拠とされた証拠はことごとく否定されており、逆にスクリューからドック番号が判明するなど、陰謀論を否定する証拠の方が上がっている。
・タイタニックの沈没には、石炭火災の影響があったという新説が持ち上がっている。石炭火災が事前に発生していたせいで、防水隔壁が歪んで機能しなくなり、外壁にも損傷が生じていたと推測されている。
・タイタニックが就航した頃は、イギリスでは浸水対策が万全な船は救命ボートが規定の半分で良いという決まりがあったため、タイタニックでは多くの乗客がボートに乗れず、結局は2200人のうちの700人しか助からなかった。
・タイタニックの事故以降、海上輸送の安全性を確保するための国際条約が締結され、いかなる場合にも全員が乗れるだけの救命ボートの設置が義務づけられることとなった。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・人類の技術レベルが上がってくるにつれて、事故が起こった時の被害のレベルも上がってきました。昔ならどんな大事故が起こっても、せいぜい町が一つ壊滅するぐらいまででしたが、今は一つ間違うと地球が壊滅しかねないことになってます。しかしどれだけ人類の技術レベルが上がっても、人間というのはミスを避けられない生き物だということを忘れてはいけない。
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