教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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"重力波望遠鏡KAGRAがついに稼働、しかしまだまだ課題も" (8/9 サイエンスZERO「ついに稼働KAGRA 初観測の舞台裏」から)

重力波望遠鏡KAGRAがついに稼働開始

 先週のラストにチョロッと出たマルチメッセンジャー天文学の要である重力波望遠鏡のKAGRAがついに稼働を開始したとのことで、その紹介。以前にKAGRAの稼働前の状況については紹介しているが、その続報になる。

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 まず番組はKAGRAとは何ぞやというところをザッと復習しているが、要は90度方向にレーザー光を同時に発射し、それを3キロ先の鏡で反射させて帰ってきた光を重ねる。この時に両方の長さが全く同じだと光は互いに打ち消し合うので何も残らないが、重力波がやって来るとこの3キロの長さが微妙に変化することで光路長に差が生じ、二つの光を重ねた時にズレが生じるので、それを検出することで重力波を測定するというシステムである。

 当然のように振動などに非常にシビアなので、岐阜県の山奥深くの地中に設置され、操作は遠隔によって行われる。また反射鏡は熱による表面の分子の歪みまで排除するために、巨大な人工サファイアの鏡を-253度にまで冷却して使用しており、さらにこの鏡は長さ14メートルの防振装置から吊されているという。

 

初稼働の性能は想定通りだが、まだまだ課題が

 なお初稼働した際の性能としては、中性子星の合体の際の重力波を300万光年先から検出できるという性能を示したので、これは最低限のクリアすべきラインはクリアしたことになるとのこと。これは隣のアンドロメダ銀河までをカバーする距離になる。ただしこれはまだまだ満足いくレベルではなく、目標は4億5000万光年であるという。ここまで来ると銀河の数が圧倒的になり遠くの銀河団までターゲットにはいる。こうなると滅多に起こらないような現象も観測できる可能性が高まり、観測対象は劇的に増加(1000万倍ぐらい)する。

 ただここで予想外の問題が発生した。いわゆるコロナの流行。重力波望遠鏡はアメリカに2台、イタリアに1台あり、これらと測定結果をつきあわせることで重力波のやって来た方向を正確に決定すると言うことが可能になっているのだが、コロナの影響でアメリカとイタリアの施設がロックダウンになってしまい、その試みは一行進んでいないとか。またKAGRA自体も密を避けるために制御室に入れる人数が制限されてしまい、なかなか作業も効率的に行えないのが悩みであるという。

 

性能向上のための取り組み

 そんな中でもさらなる能力向上のための取り組みは行われており、それはノイズの除去であるという。ノイズにはまずは空調の稼働音などの音波によるものがあり、さらには地震などは典型的なノイズとなる。しかしそれどころではなく、50キロ先の富山湾に叩きつける日本海の荒波までノイズ源になるとのこと。恐ろしいほどシビアな世界であるが、そういうものを一つ一つつぶしていっているという。ただゲストの国立天文台重力波プロジェクト准教授の麻生洋一氏によると、こういう原因を一つ一つつぶして行っている内に、重力波の測定よりもそのことの方が面白くなってきたとのことで、こういうのを本末転倒と言う(笑)。まあ手段が目的化することを趣味というという言葉もあるから、ノイズつぶしがとうとう趣味になってしまったか。

 しかしノイズは予想外のところにも現れる。安全のためにレーザーを止めることが出来るシャッターを設置した途端にレーザーの揺らぎが出てしまったのだという。この装置は観測中のレーザーには直接関係がないはずなのに怪奇現象である。そこで諸々調査した結果、シャッターを動かすための電磁石がわずかに発熱し、そのことが陽炎を引き起こしてレーザーの揺らぎにつながっていたと言うことが判明したとか。

 さらに今回はサファイア鏡も実はまだ真価を発揮していないのだという。今回、真空度が想定よりもわずかに悪く、そのために着霜現象が起こってしまって-253度まで鏡を冷やすことが出来なかったのだという。これはまだこれからの上げしろである。

 

 ようやくKAGRAが稼働したとのことですが、まだまだ本領発揮には遠いようです。もっともどんな装置もこんなものです。これだけ精密かつ複雑な装置がスイッチオンでいきなりフル性能を発揮できないのは当然。これから細かい問題点を次々につぶしていく血道な作業が必要でしょう。

 それにしても日本海の荒波ってそんなに大きな影響があったとは。近くの道路を車が走った時とかは大丈夫なんでしょうか? まあそんなものがあまり来ないように山奥にあえて作っているんだと思いますが。

 

忙しい方のための今回の要点

・重力波望遠鏡KAGRAがついに稼働した。
・KAGRAは90度方向に照射したレーザーを3キロ先の鏡で反射させ、その反射波の位相のズレを検出する。重力波を受けるとこの光路長がごくわずか変化するので、それがレーザー光の位相のずれにつながる。
・最初の測定では300万光年先の中性子星の合体を検出できる性能が確認され、最低限度の目標は達成できた。しかし本来の目標である4億5千光年の感度を目指して、測定のノイズを低減するための改良を行っている。
・ノイズには施設内の音波や地震などがあるが、何と50キロ先の富山湾に打ち寄せる日本海の荒波までノイズ源になるという。
・コロナの影響で海外との同時観測ができなくなったりなどのトラブルも発生しているが、KAGRAはさらなる性能向上をしての観測が期待されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・うーん、実にシビアな世界だ。これは私のように適当でがさつな人間には向かない分野だ。何しろ私は化学実験を大さじ、小さじで行っていた人間なので(笑)。こういう細かい作業は全く無理です。

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