教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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2/7 サイエンスZERO「命を救う"驚異の数学"発明家・木村健次郎」

数式を解くことで新技術が誕生

 数学と言えば、どうも浮き世離れして現実には直接役には立たないというイメージがあるが、今回はその数学が非常に画期的な技術に結びついたという例を紹介。

 今回登場するのは発明家・木村健次郎氏。彼が開発したというのが、以前に健康カプセルのガン検診の回に登場した、神戸大学で開発中のマイクロ波マンモグラフィー

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マイクロ波の散乱で乳がんを発見する

 あの番組では痛くないということが最大のメリットとして紹介されていたが、本番組ではそれよりもむしろ、若い女性などに多い高濃度乳房の場合、白く写るコラーゲン繊維に妨害されてガンを見落とす可能性があることを防げるという点を紹介している。

 マイクロ波を検査に用いたのは、マイクロ波は油と水で反射率が違うので、脂肪やコラーゲンなどはマイクロ波を通すのに対し、がん細胞の周辺は毛細血管が発達して水分が多いことから、ここでマイクロ波の反射が起こるのだという。

 実はマイクロ波を使えば良いということは以前から言われていたらしいが、実用化が出来なかったのは根本的な問題があったからだという。それはマイクロ波は反射する時に複雑に放射状に反射するので、どこで反射したかの場所を突き止めることが出来ないのだという。

 

波の散乱の逆問題を解くための公式

 これは数学的には波の散乱の逆問題を解くということになるという。波が発生した時に、障害物の位置や形が事前に分かっていたら、それからどのような散乱波形になるかを計算するという順問題は解くことが可能なのに対し、散乱した波形から障害物の位置や形を求めるという逆問題を解く方法が存在しなかったのだという。そこで現在はスーパーコンピューターを用いて、適当な障害物の形と場所を推定した結果からの波形解析を繰り返すという計算方法を取るしかないが、これだとスーパーコンピューターを使用しても計算に数百時間を要し、実用性が皆無だったのだという。

 ここで木村氏が登場するわけであるが、彼はこの逆問題を数式的に解くことが出来ないかの研究を行ったのだという。そして10年をかけた結果、ある公式でこの逆問題を解くことが可能であることを突き止めたのだという。この公式を適用することで、乳房の表面からマイクロ波を当てて、その反射波を計算することで乳がんの位置と形を発見できるようになったのだという。ミリ単位のガンを発見できるので、どのように切除すれば良いかが一目瞭然であり、非常に有用な装置であると言う。

 

あらゆる分野に応用される数式

 木村氏の数式は反射波から反射物の場所と形を求める式であるので、他にも応用が様々に利くという。既にリチウム電池内部を磁場で透視して異常の有無を判断する装置が実用化されているという。さらにはトンネルコンクリートの内部検査や次世代セキュリティーゲートなどの開発もされているという。コンクリートは従来の打音検査でなく、電車で走りながら内部構造をすべて可視化できるのだとのこと。またセキュリティーゲートは鞄などに隠している銃などの凶器を透視できるとのこと。


 以上、数学から広がった画期的新技術について。逆問題を数式で解いたというのが天才なんでしょう(私は数学が専門ではないので詳細は良く分かりませんが)。現在、数学が解けないので行き詰まっている分野というのも結構あるので、そういうところでの数学の発展に期待したいところです。個人的には多体問題の解法なども誰か見つけてくれないでしょうか? これが解ければシュレーディンガーの波動方程式を短時間に高精度で解くことが出来るようになると思うので、化学のシミュレーションの分野が劇的に進化します。

 

忙しい方のための今回の要点

・波動に関する逆問題を解く公式を発見したことから、数々の技術に結びつけた発明家の木村健次郎氏が登場。
・波動の逆問題とは、物体に当たって散乱した波形から、元の物体の位置と形状を求める問題であり、今までは数学的に解く方法がなかった。
・これが可能となったことで、マイクロ波を使って乳がんの位置と形状を求めるマイクロ波マンモグラフィーが開発された。
・また既に磁場の測定からリチウムイオン電池内部を検査する機械は実用化されており、トンネルコンクリートの内部検査のための装置も実用化されている。
・さらに近日中に鞄の中の銃などの凶器を透視するセキュリティーゲートも実用化の予定とのこと。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・私は一応理系ですが、とにかく数学は苦手ですので数式が出てくると頭が飛びます(笑)。ただ、やはり仕事柄数式から完全に離れるわけにもいかないので、一応日常的に数式を目にはしてますが(目にするだけで解きはしない)
・数学の世界って、実際に未だに解かれていない問題ってのは多数あるみたいですね。そういう意味では地平線はまだまだ広がってるんでしょう。

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