教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/29 BSプレミアム ヒューマニエンス「"涙"秘められた魔法の力」

目の保護のための涙

 人間の涙。これには実は様々な秘密があるのだという。

 涙といえばまずその重要な働きは目の粘膜を乾燥から防ぐこと。かつて生物に目が産まれた時には生物は海中で生活していたので目の乾燥を心配する必要がなかった。しかしそれが地上に上がると、まぶたを作って目を涙で保護する必要が生じた

 涙は実は複雑な成分で出来ている。ムチンと水分と油層の3層構造になっており、ムチンが粘膜を保護して、表面の油層は乾燥を防ぐ。水分には血液の成分が多く、栄養の補給なども行っているという。実際に涙がないと目の粘膜が不透明になって皮膚になってしまうとのこと。また重症の涙不足の人のための血液から目薬を作ったという例も登場している。涙は目の血液なのである。またこれらの涙の中には基礎分泌の涙(副交感神経が関与)、反射性分泌の涙(三叉神経が関与)、感情の涙(副交感神経が関与)の3種類が存在する。

 

感情で流れる涙の秘密

 人間は悲しかったりうれしかったりしても涙を流すが、そもそも子供は自分のストレスで泣くのに対し、大人になると共感で泣くようになるという。泣いている時は前頭前野が活発に反応しており、その時に活性化しているのは前頭前野の非言語コミュニケーションを司る部分である内側前頭前野であり、これこそが共感脳であるという。この共感脳は自分の体験を元に発達するので、大人になって経験を積んでくることによって他人に対する共感が深まって涙することが増えるのだとか。そう言えば私も年を取ってからやたらに涙もろくなったことを感じているのだが、これは単純に人生の経験を積み重ねたということのようである。ちなみに私が今でも泣けるのは「プロジェクトX」だったりする。一昨日に放送していた「父が背中で息子に語りかける」なんてパターンは涙ボロボロだったりする(笑)。うちの親父はこんな立派な部分は微塵もなかったから、その情けない経験に基づく涙かな(笑)。

tv.ksagi.work

 なお笑いの神経回路と泣きの神経回路は隣接しているので誤作動する。これが悲しい時だけで泣く、大笑いした時にも涙が出る理由だとか。なお、あくびの場合は脳の低酸素で誤作動するので涙が出るとのこと。

 

涙による癒やし効果と他者に与える影響

 また涙にはストレス物質が分泌されている事が分かっており、泣くことはストレス解消効果があるという。泣くことで副交感神経のスイッチが入ることも分かっているという。一般的に睡眠時に副交感神経優位に切り替わるのには10分かかるのに対し、泣く時は10秒で切り替わっており、根本的にメカニズムが違う。泣いた時には室傍核という部分が関与しており、ここが瞬時に副交感神経に切り替えるのだという。泣くと言うことはストレスに対しての癒やしの安全弁という役割があると言う。

 昔から「涙は女の武器」などといったりするが、涙は他人に影響を与えることも分かってきているという。動物実験では、マウスの涙にフェロモンが含まれることが判明しており、それが性行動に影響を与えるのが分かっているという。人間を使った研究では、女性の涙を嗅ぐとテストステロンが減少するという現象が観察されたとのことだが、これは涙を嗅ぐと女性への興味を失うという意味であり、女の武器とは真っ向から反する結果ではある。どちらかというと、わけが分からず泣いていている女に男がドン引きしているって状態だろうか。織田裕二氏はどうもこちらの方が良く分かると言っていたが(笑)。確かに私も女性が突然に泣き出したら、それはこっちに何かを要求している(それも往々にして理不尽な)シグナルと感じて、確かにドン引きするな。

 

 以上、涙について。涙の成分が血液由来という話があったが、汗の成分も血液由来です。小便は血液から老廃物を漉し取ったものだし、体内の水分の大半は血液ですから、必然的に排出される液体成分もどこかで血液と関与するものになります。

 なお男性が泣かないのは、男が泣くのは男らしくないというしつけをなされているからという話が出てましたが、確かに日本では未だに男が涙するのは「女々しい」(本当に男女差別むき出しの言葉ですが)として否定的に捉えられてました。それが最近は「人間性が豊か」と解釈が変わってきていると言ってましたが、本当でしょうか? どうも私はそれが今ひとつピンときません。

 なお私は上でも言ったように、老化とともにもろに涙もろくなっており、映画等で涙が出ることも多くなってきました。つい最近も「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の映画でボロ泣きしてしまったところではあります。まああの映画はもろに「泣かせ映画」でしたからまだ良いですが、さすがに「仮面ライダー1号」を見ていて涙が出そうになったのには自分的にもヤバいと感じました(笑)。

anime.ksagi.work

 

忙しい方のための今回の要点

・涙は目の乾燥を防ぐ効果があるが、粘膜に栄養を与える作用もあり、血液を元に生成している。
・感情で流れる涙は、他者への共感を司る内側前頭前野が活性化しており、人生経験を積み重ねることで他者への共感が増すことでより流れやすくなると言う。
・泣くことにはストレス解消効果もあり、室傍核が副交感神経に10秒で切り替えることで、瞬時にリラックス効果が発生する。
・女の涙は武器などと言われるが、確かに動物実験では涙からフェロモンが発見されたりしているが、人間においては目下のところは「男性をドン引きさせる効果」しか発見されていない。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・子供の涙って、確かに「痛いよ、ツラいよ」っていう自分の反応だけなんですよね。他人に共感できるようになるのは自身の人生の経験を積み重ねてこそ。結局はここでまともな人生を歩まなかったものは、他者への共感というものを持たなくなるので、他人を簡単に切り捨てるような冷血になったりするわけです。これって、持って生まれた資質もあるようですが、環境による後天的なものも大きい。特権階級に生まれて「奴らは卑しい連中」と仕込まれた者がろくでもない人間に育つみたいに。

次回のヒューマニエンス

tv.ksagi.work

前回のヒューマニエンス

tv.ksagi.work