教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/30 テレ東系 ガイアの夜明け「頼みの綱は…美味しいパン!」

町のパン屋さんの逆襲

 全国各地にあるいわゆる「町のパン屋さん」であるが、その中にはコロナ禍で苦戦している店も少なくない。そんな中でその力を生かす新しい動きが始まっている。

 横浜の高島屋では日本最大級のベーカリーコーナーを新設した。40ブランド500種類のパンが並んでいるという。各種の有名パン店が出店しているのみならず、地元のパン屋の商品を紹介販売しているコーナーもある。地域に対する貢献にもなると共に、1日当たり1万個以上も売れるという、高島屋としても集客力を持つコーナーであり、ここでの集客を他の売り場に波及させるという計算もある。

 

町のパン屋さんのパンを冷凍販売

 auの店舗でパンが販売されるという奇妙なコラボが最近なされたのだが、ここで販売されたのが冷凍パン。温めるとホカホカのパンが食べられるという。この仕掛け人が矢野健太氏。彼は各地のパン屋のパンを鮮度を保つ独自の袋に入れた上で冷凍販売するパンフォーユーというベンチャー企業を設立している。現在の従業員は30人で拡大中であると言う。広告代理店に勤めていた矢野氏が、地方に良い仕事を作りたいと考えて思いついた事業だという。

 同社が用いている袋は通常のものに比べて水分と香りを保持するので、これで密封して冷凍すると常温保存よりも風味が上回ることが分かったのだという。同社が全国から見つけた地方の30の名店のパンをこの袋で冷凍し、主に首都圏の消費者に販売するパンスクというサービスを始めたところ、順調に伸びているという。送料込みで1回3990円で、どの店のパンが届くかはお楽しみだという。冷凍設備はどのパン屋にもあるので新規の設備投資は不要だという。参加している高崎のパン屋では今は売り上げの5割がパンスクになっていると言う。

 

パンフォーユーに賭けた地方のパン屋

 これに参加することを検討していたのが岡山駅近くのsunnyという店。店を切り盛りする山下氏夫妻は働いていたパン屋で知り合って結婚、3年前に独立を果たしたのだという。オフィス街にある同店はコロナの影響によるテレワークで売り上げが3割落ちたという。そこで売り上げを増やす方法を検討していたところパンフォーユーに出会ったという。

 とにかくパンフォーユーに採用されるかどうかの試験を受けることになった山下氏は、冷凍パンに向いたパンを開発することにする。冷凍パンは生野菜の類いは向かないとか、具がむき出しになっているものは風味が落ちるなどの制約があるという。総菜パンを得意としている山下氏には難しい制約。しかし山下氏は蒸し鶏を使用して冷凍に向いた新しいパンを開発する。このパンは矢野氏の元に送られたパンは早速試食。矢野氏は同社のラインナップに今までなかったタイプのパンであると採用を決定する。

 矢野氏の元に大きなビジネスが舞い込んだ。大阪メトロからコロナで撤退が相次いだ堂島の地下街でパンフォーユーのテスト販売が決定されたのである。昼食時などになると行列が出来る盛況で矢野氏は手応えを感じている。

 

長時間労働解決のための冷凍生地導入

 一方、パン業界で問題となっているのが長時間労働。多くのパン屋では朝4時から仕込みを始め、8時に開店するとパンの売れ行きを見ながら追加で焼くなどの作業が。翌日のための仕込みなどもあり、閉店が午後9時だと1日の労働時間は何と17時間に及んでしまう。毎日睡眠時間が5時間というパン職人もいるという。

 これを改革するべき取り組みを開始したのが北海道の「小麦の奴隷」なるパン屋。同社では冷凍のパン生地を使用することで仕込みの作業を大幅に簡略化しているという。同社はクルトンをつけたカレーパンが大好評なのだが、現在は冷凍技術が非常に向上しているので、冷凍パン生地を使用することによる味の変化などはないという。そのために同社では他のパン屋が3時や4時に出勤するのに朝は5時半。これで十分に間に合うという。経営する橋本氏はパン屋の働き方を変えたいという。彼は整体師から転職したという。元々はホリエモンのアイディアを彼が現実化したのだという。

 店がオープンすると彼はパンを車に積んで様似町に出向く。ここで出張販売をしているのだという。どこでいつ行うかはSNSで紹介し、常連さんが集まってくる。様似町にはパン屋がないので多くの顧客をこれで確保しているのだという。同社は周辺23市町村を回っており、店も儲かり住民も助かるというメカニズムである。午後3時にはパンは完売して1日の仕事が終了だという。

 同社は昨年の10月に東京に2号店を出した。この店では北海道の店の3割引で販売しているが、その理由はここはフランチャイズ展開のための研修生を集めての店だからだという。研修期間は2週間だが、冷凍生地を使えばそれでも店を開けるという。やはり労働時間が短くて済むのが魅力だという。実際に2週間の研修を終えてフランチャイズの1号店も開店し、既に人気店となっている。

 

 パン業界はヤマザキのような工場を使った大手パンメーカーがある一方で、町のあちこちでパン屋が存在しているという奇妙な業界ではある。またヤマザキのような保存料や添加物使いまくりの薬まみれパンよりも、町のパン屋の方が品質面でも安心感があったりする。もっとも過当競争気味の感もあり、収益の厳しいパン屋も少なくないだろうと思われる。

 そのようなパン業界の新たな形を模索しているようだが、ここで鍵になっていたのは冷凍技術。パンフォーユーはまさに冷凍パンを販売する会社だったし、小麦の奴隷も冷凍パン生地の使用が省力化のキーテクノロジーだった。冷凍パンは私はまだ試したことがないので、どの程度のものなのかは分からないのだが、少し調べただけでも冷凍パンの全国販売は同社だけでなく、既に個々のパン屋でも取り組んでいるところはあるようだ。

楽天市場にもこういうのが出ており、他にも多数

 

 パン屋の長時間労働の問題があったが、そもそも本来のパン屋は、朝に仕込みをして販売を始めると、昼頃には売り切ってしまって店を閉めるというのが常識だったのだが、昨今は勤め帰りの人などに合わせて夜にまで販売したりすることからこんなことになってしまったと思われる。冷凍パン生地を使用するというのも一つの手だが、そもそも朝昼向けのパン屋と昼夜向けのパン屋を分けられないのかということも思ったりするのだが。それと一つ分からなかったのは、同社の冷凍パン生地はどうやって入手してるのかである。同社が前日に仕込んで冷凍しているのだったらトータルでの作業時間は変わらないし、どこか工場的なところで大量生産しているとなったらまた話が変わってくる。そこのところは不明。

 

忙しい方のための今回の要点

・横浜高島屋で各店のパンを集めた巨大ベーカリーコーナーが設置されるなど、パンのビジネスも変わりつつある。
・冷凍パンの販売を行うパンフォーユーでは、全国各地の町のパン屋さんのパンを首都圏の消費者に冷凍で販売するパンスクというサービスを開始して好評である。これに参加することで売り上げが安定した町のパン屋も存在する。
・さらに堂島地下でテスト販売したりなど同社ではさらに冷凍パンの販路を広げようとしている。
・またパン屋で問題となる長時間労働について、北海道の小麦の奴隷では冷凍パン生地を使うことで朝の仕込み時間を大幅に短縮することを可能とした。また同社は地方での巡回販売をすることで販路を確保している。
・さらに冷凍パン生地を使用することで2週間の研修でフランチャイズ出店させることも可能であり、今後の展開を進めている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・パンの世界も実は奥が深くて、それがパン屋ごととに味が違うという最大の原因。実際に消費者としては美味しいパン屋を見つけるまでが大変です。まあヤマサキなどを最底辺としたら、町のパン屋は大抵はそれよりは美味いですが、その中でも各店で特徴がありますので。

次回のガイアの夜明け

tv.ksagi.work

前回のガイアの夜明け

tv.ksagi.work