教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

11/7 NHKスペシャル「グレート・リセット~脱炭素社会 最前線を追う~」

破綻まで後10年という数字

 持続可能な社会を考えた時に、一番の問題となっているのは二酸化炭素排出増に伴う地球温暖化である。実際に既に異常気象などの問題は各地で報告され始めている。

 最新の科学予測をまとめた国連の報告書が今年出されたが、ここに登場した人類の未来を左右する数字が5000億トンだという。これは今後これ以上の量の二酸化炭素を排出すれば、地球の気象がドミノ倒しのように変化し、人類には手のつけようがなくなるという。世界全体での二酸化炭素排出量が年間400億トンであるので、このままだと後10年ほどで危機的状況に陥ることになる。

 これを回避するためのキーワードがグレート・リセットである。持続可能な社会のために経済や社会のシステムを根本から変えようという考えである。世界は脱炭素社会の方向に向かっている。

 

 

COP26での各国の目標

 イギリスでCOP26が開催され、各国リーダーは二酸化炭素削減の対策を発表した。アメリカは2030年までに温暖化ガスの排出を半減させる方針を打ち出した。石油の都であるテキサスでは政府の補助によって風車や太陽光パネルが次々と設置されている。現在は全電源中で2割の再生可能エネルギーをどこまで増やせるかが鍵を握っている。

 世界で最も温室効果ガスを排出している中国は、2050年までに実質排出量を0にすることを謳っている。内モンゴルには大規模な太陽光パネルを設置しており、2020年で15.9%の非化石燃料の割合を2060年には脱炭素80%以上にする計画だという。

 そして日本は2030年度に温室効果ガス排出量を46%削減するという目標を掲げている。火力を減らすと共に再生可能エネルギーと原子力を増やすとしているが、日本は大規模に太陽光パネルを設置できる場所が限られる上に、原発は大きな問題を抱えているので、技術開発が必要となっている。

 取り組みにもっとも熱心なのはEUだが、フランスは社会変革に取り組んでいるという。その一環として国内の航空路線を廃止して、夜行列車を復活させるということまで実施している。鉄道会社は廃棄予定だった夜行列車を改装しているという。二酸化炭素の排出量は飛行機の1/15になるという。

 地球の平均気温の研究結果によると、現在は産業革命の頃よりも1.1℃上昇しているという。このまま2℃前後まで上がってしまうとアマゾンの消滅、永久凍土の融解などがドミノ的に発生し、人類がどう努力しても地球の平均温度は4℃も上昇して回復が不能になるという。さらに医学会からは、1.5℃上昇するだけで我々の健康に深刻な影響を与える可能性があるという。となると後0.4℃しか余裕がなく、その量が冒頭の5000億トンなのだという。

 

 

石油メジャーに迫られる構造改革

 気候変動訴訟なども発生しており、特にシェルが訴えられた裁判は注目された。シェルが二酸化炭素削減に真剣に取り組んでいないというのである。これに対してハーグ地方裁判所は二酸化炭素の削減強化をシェルに命じる判決を出した。この判決は石油業界に大きな衝撃を与え、シェルは2030年までに温室効果ガスの排出を半減させるという目標を発表せざるを得なくなった。

 そんな中、フランスの石油メジャーのトタル・エナジーは石油依存からの脱却を発表した。石油を減らして風力やバイオマスなどに力を入れるというのである。製油所の廃止に抗議する労働者の葬儀まで起こったが、それでも変革を推し進めようとしている。特に航空機や自動車の脱石油に力を入れている。食用油を原料にした航空燃料なども登場すると共に、二酸化炭素を海底下の岩盤の下に閉じ込める技術の開発も進めている。脱炭素市場で主導権を握ろうともしているのである。

 

 

急速な脱炭素化がエネルギー不足をもたらす

 しかし脱炭素を急ぐ中で原油価格高騰などのエネルギー問題も発生している。今後脱炭素の進行で、アメリカなどでは石油掘削に対する規制が拡大することでさらに価格の高騰もあり得るという。急激すぎる規制には抵抗する声も多い。

 さらに二酸化炭素の排出の少ないLNGの国際争奪戦が起こっているという。特に中国は発電の中心である石炭火力の置き換えを進めているので一番必死である。中国では電力不足のための停電なども起こっており、電力問題は非常に深刻なのである。中国ではLNGをつなぎのエネルギーとするしかないのだという。そしてその影響は日本にも及んでいる。日本で使用するLNGの確保に苦戦しており、それが電力不足につながりかねないと懸念されている。三井物産では二酸化炭素を出さないアンモニアを石炭に混ぜることで二酸化炭素を減らすなどを考えており、オーストラリアからアンモニアの輸入を考えているという。

 

 

エネルギー源の転換以外の方法の模索

 国連の試算によると、COP26の目標が達成されたとしても、地球の平均気温は今世紀末には2.7℃上昇するという。1.5℃以内に収めるにはどうするか。22カ国70人の研究者が80種類の対策について徹底検証した結果、エネルギー転換以外にも脱炭素の方法があることが分かってきたという。冷媒の変更から電気自動車、住宅の断熱なども含まれるが、食料廃棄の削減、植物性食品を中心にした食生活なども二酸化炭素の削減に貢献できるという。フランスのリヨンでは幼稚園で週に一回肉を食べない日を設けたりしているという。これは保護者からの提案によるものだったという。

 このような生活転換の鍵を握るのは市民の力である。フランスでは一般市民が政府に提言する気候市民会議が開催された。そこでは市民が議論を重ねている。9ヶ月の議論の結果、149のリセット案が含まれた提言書が提出された。その中のアイディアの一つが航空機の近距離路線の廃止であったという。会議に参加したことをきっかけに自らの生活スタイルを見直した人もいるという。

 

 

 以前に放送された「2030未来への分岐点」のシリーズとも関連性のある内容である。結局のところエネルギー源変更だけでは間に合わず、現在のエネルギー大量消費社会の根本を改革していく必要があるのだということである。

tv.ksagi.work

 日本ではエネルギーの問題も深刻であるが、やはりここで真剣に取り組む必要のある件の一つは廃棄食料の削減だろう。これについては日本では毎日膨大な食品を廃棄しており、これらはひいては最終的に二酸化炭素になっていることにもなる。これを改善使用すると、やはり現在の経済性最優先、端的にいえば儲け優先の社会構造を変革する必要がある。となると企業にそれを望むのは難しいから(企業はその目的として、どうしても儲けを最優先にせざるを得ない)、政府や市民の側から働きかける必要があるのである。

 そのためには日本の国民の意識がどれだけ高まるかが鍵となるのだが・・・正直なところ先の選挙の結果を見ていると甚だ心許ない。明らかに日本国民の大半が現実逃避に陥って考えることを避けているのが明瞭だからである。しかしこのままだと現実逃避しているうちに最悪の現実に直面させられることになりかねない。上から下まで絶望的なほどに危機感のない状態をどうしたら変えられるか。それが課題である。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・産業革命以降地球の平均気温は1.1℃上昇しており、このままの調子で行くと、後10年程度で取り返しのつかない破綻が来る可能性が高いとの報告がなされている。
・COP26で各国が温室効果ガスの削減目標を発表したが、実際には難しい問題を多く抱えている。
・アメリカでは新規の油田の開発に規制を欠けたことで石油が不足して価格が高騰することが懸念されている。また中国では石炭発電をLNGに切り替えようとしているために、国際的にLNGの争奪戦が起こっている。
・日本ではLNGの輸入が困難になりつつあることから、アンモニアなどの新たなエネルギー源の導入も検討している。
・しかしCOP26の目標が達成できても、今世紀末には気温が2.7℃上昇するという試算があり、さらなる削減のためにはエネルギー源の問題だけでなく、生活スタイする自身の変更も必要だという。
・具体的には電気自動車の導入、住宅の断熱化などがあるが、廃棄食料の削減や植物性食品への変更なども考えられるという。
・フランスでは市民が会議をして政策を提言、その中から近距離航空路線を廃止して夜行列車に切り替える政策が実行された。


忙しくない方のためのどうでも良い点

・結局は意識の問題なんですよね。EU市民には意識の高い者が多いので、こういう政策も比較的受け入れられやすい土壌がありますが、アメリカなんかは未だに温室効果を否定しているトランプの信者なんかがゴロゴロいるせいで、合理的に物事を考えられない者が多いし、日本は丸ごと現実逃避しているような者が多いのでこの辺りがネックです。