教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/16 NHK 歴史探偵「南極タロジロ物語」

社会現象とまでなった南極犬の物語

 今回の主人公は南極基地での生存物語で感動を呼び、映画化もされて社会現象ともなったタロジロである。なおこの頃、当時の世の中を代表するものとして「巨人大鵬卵焼き」に代わって「おしんタロジロ隆の里」と朝日新聞の天声人語が記したのが記憶に残っている。

 ただ内容自体は以前にもろに「南極タロジロ物語」という今回のまんまのサブタイトルで「偉人たちの健康診断」で放送されており、今回の内容もかなり被ります。ハッキリ言って同じネタを元にした撮り直しに佐藤二朗を追加しただけです(笑)。なお本放送は途中で起こった福島地区の大地震のために30分程度でぶった切られてしまったが、再放送等の特別なアナウンスのないまま、翌晩の通常再放送でチェックしろということになったようである。恐らくそれに気付かなかった者はオンデマンドを使えとでもいうところだろう。この辺りの極めて雑な対応はいかにも昨今のNHKらしい。みなさまの受信料で支えられているという意識がなくなり、安倍様のNHKになっている証拠だろう。

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南極探検で期待された犬の特殊能力

 さて南極昭和基地の犬ぞりのために子犬の頃から訓練を積んで南極に連れて行かれたタロジロの兄弟カラフト犬であるが、そもそも南極越冬観測隊は雪上車も装備していたという。それなのにあえて犬ぞりも使用したのには理由があるとのこと。

 それはまず雪上車はろくテストも出来ないぶっつけ本番の状態で運用することになったから、まともに動くかどうかの心配があったこと(実際にガソリン中の微量水分が凍結してエンジンが停止するというトラブルが発生した)。それと犬が持つ特殊能力に期待してのものだという。

 南極の雪原は一見何もないように見えるが、実はクレバスが潜んでいたりなど危険が一杯である。それを犬はその抜群の嗅覚や聴覚により、事前に異常を察知することが出来るのだという。例えばクレバスなどがあって微妙に気流が変わったら匂いが変わるなどで、犬は何らかの変調を察知するのだとか。また聴覚も良いことから雪が崩れる兆候などに気づくことも可能である。

 ちなみに犬ぞりは第四次越冬隊まで使用されたようだが、その後は雪上車の信頼性が上がったことと、南極の生体系を乱さないために動物の持ち込みが規制されたことなどで廃止されたという(この辺りは番組は特に触れていないが)

 

 

宗谷の能力不足のために犬たちが南極に取り残される

 タロジロが南極に置き去りにされることになった経緯だが、本来は第二次越冬隊に引き継ぐべく鎖につながれたまま置かれたのだが、第二次越冬隊を輸送してきた宗谷が記録的な寒波のせいで氷の中に閉じ込められ、身動きできなくなったことがキッカケだという。その上に宗谷はスクリューを破損、自力航行が不可能な状況にまで陥ってしまったという。

 宗谷がそのように危機的状況に陥ったのは、根本的に宗谷が砕氷船として十分な性能を有していなかったからだという。現在南極観測船として活躍しているしらせは3万馬力に対して宗谷は4800馬力しかなく、宗谷の砕氷能力はせいぜい1メートル程度とのことなので、少し分厚い氷にぶつかると進退窮まったという。そのような能力不足の船を南極観測船として運用しないといけなかったのは当時の日本が置かれた情勢があったという。

 戦後、敗戦国として国連への加盟も拒否されていた日本は国際的に孤立していた。そんな中、1957年の地球観測年に協力することで国際社会への復帰の足がかりにしようと考えた。日本は赤道での観測に名乗り出たのだが、各国の反応は冷ややかで、参加は認められたが赤道域は旧日本軍支配域に近いと全面却下され、まさかの南極観測を割り当てられたのだという。極地観測の経験もノウハウもない日本はわずか1年の準備期間で観測隊を送り出すことを余儀なくされ、急遽戦前に建造された寒冷地仕様の貨物船である宗谷を砕氷のために舳先を強化するなどのにわか改造を施すということになったという。だから最初から性能不足なのは明らかだったが、当時の日本の国力などからはこれが限界だったという。

 進退窮まった宗谷はアメリカに援助を要請して、アメリカの砕氷船バートンアイランド号が駆けつける。そしてこの船の先導で基地に近づき、飛行機で一次隊を回収してから代わりに二次隊を送り込むことになる。しかし一次隊の隊員を回収したところで天候が悪化、飛行機を飛ばすことが不可能となる。しかもこのままだと二隻とも氷に閉じ込められて身動きが出来なくなるとバートンアイランド号から即時の離脱を告げられる。宗谷はそれに従うしかなく、その場を移動する。その後、近海で飛行機を飛ばす機会を覗うために滞在したが、船体の損傷及び真水の保有量から一週間が限界とされた。しかしその一週間天候は悪いままで、断腸の思いで第二次越冬隊の派遣は中止されるのである。

 

 

タロジロの生存の鍵となった第3の犬の存在

 こうして取り残された犬たちは絶望だと思われたが、翌年に第三次越冬隊を乗せた新装備の大型ヘリが昭和基地に接近した時に、基地の近くにいるタロとジロを発見したのだったという感動物語になる。なお残された15頭のうち、タロとジロを含めた8頭が首輪を抜け出していたが、6頭はどこかに行っていて生存は絶望的、7頭は首輪をつけたまま死んでいた。

 なおタロとジロが生存できた理由として、実は第3の犬の存在が判明したという。これの内容は先の「偉人たちの健康診断」でも登場しているのだが、リーダー犬のリキの存在があったという。リキは10年後に基地の近くで死んでいたのが発見されたという。リキというのはリーダー犬であり、リーダー犬はそもそも犬ぞりを引く時に人間の指示を受け取って群れを率いる役割を持っており、冷静沈着で賢い犬である必要があると言う。またこのリキは抜群の方向感覚を持っており、実際に2度ほど移動の途中で突然フラッといなくなったことがあるらしいが、翌日に移動先に戻ってきたという。南極観測において移動の際に各地に補給基地を作ってそこに食料などを置いていたし、また途中にクジラの死骸などもあったので、その場所をリキが把握していたらタロとジロはリキについて行くことで食料にありつけたのではという。またリキは南極の奥地は寒さが厳しいことを知っていたので基地周辺にとどまったが、他の犬は奥地に行ってしまって結局は亡くなったのではとしている。ただリキは7才とかなりベテランのカラフト犬だったために冬を越すことが出来ず、結果的に若いタロとジロのみが生き残ったのではという。

 こうして生き残ったタロとジロは再び任務に就く。ジロは残念ながら南極で亡くなったが、タロは引退の後に北海道で余生を送り、15年という通常のカラフト犬の倍ほどの長寿を全うしたという。

 

 

 以上、シン南極物語です。最近になってクローズアップされているのがリキの存在ですが、タロジロの師匠として南極で果てた立派なリーダー犬ということになっている模様。もっとも何があったのかの真実は誰も知りませんが。

 なお映画化されており、その映画を見た記憶はありますが、詳細は覚えていません。とにかく南極のことは分からないので、犬を置き去りにした隊員たちの苦悩の物語だったのが記憶にあり、高倉健がいかにも高倉健な役柄だったのと、荻野目慶子がまだ可憐なヒロインだったのが記憶にあります(彼女はその後いろいろとあり、魔性の女とまで言われましたが)。彼女が出演していたNHK教育の若者向けバラエティ「YOU」なんてのもありましたね。当時高校生の私もあの番組見てました・・・すみません、ジジイの昔語りです。若い人には何のことやらさっぱり分かりませんね。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・タロとジロは南極観測隊の犬ぞりのために連れて行かれたカラフト犬の兄弟である。
・当時は雪上車も存在したのに犬ぞりも使用されたのは、雪上車の信頼性に不安があったのと、犬が持つ危険察知のための感覚などが必要とされたからである。
・元々犬たちは第二次越冬隊に引き継ぐために鎖でつながれたまま置かれたのだが、宗谷がその能力不足のために第二次越冬隊を基地に送ることが出来ず、そのまま放置されることになってしまった。
・宗谷はそもそも急遽改造された貨物船だったために、砕氷船として十分な能力を有しておらず、それは当時の日本の国力の限界であった。
・翌年、第三次越冬隊が生存しているタロとジロを発見したが、彼らの生存の影にはリーダー犬リキの存在があると考えられている。
・リキはすぐれた判断力と方向感覚を有し、タロとジロにエサの在処などを伝えたと考えられている。しかしリキは高齢のために南極を冬を越すことが出来ず、基地の近くで亡くなっているのが後に発見された。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあドラマ向きのネタですから、何だかんだで何度でも出てきますね。だけどまさかの生存を知った隊員は相当に驚いたでしょうが、実際は日本中が驚きましたからね。映画が出る前にも絵本の類いは早々と出ていたと思う。犬の物語と言えば、未だに忠犬ハチ公と並んで登場するエピソードです。
・ちなみにこの映画が登場した頃、ちょっとした犬ブームだったと思います。確か「炎の犬」とかいう名作ドラマがあったのが記憶に残っている。もうストーリー自体はほとんど覚えていないが、親犬とはぐれた子犬の成長物語と巨大な陰謀に巻き込まれて命の危険に瀕したその飼い主の物語がリンクしていて、最後はその子犬(その時点では成犬に成長していた)の活躍で飼い主は助かり、子犬は母の元を去って野犬の元に戻っていくって話だった記憶があります。
・なおこの主題歌が非常に独得でして、どうも琴線に触れるんですよね。いかにも苦しげな歌の1番終了後に淡々と入る状況説明ナレーションに、その後2番が続くというかなり個性的な構成で。当時から非常にインパクトのある主題歌でしたが、今回たまたま当時のOPをネットでみつけて見ていたら反射的に涙が出る自分に驚き。フランダースの犬とか、意外に犬に弱い私。


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