教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

8/28 サイエンスZERO「地球を陰で支配する!?キノコの知られざる世界」

独得の生態を持つ生物・キノコ

 今回はキノコがテーマ。生態系においては分解で重要な役割を果たしている生物である。今回のサイエンスZEROはこのキノコに注目するとのこと。

 キノコには様々な種類が存在するが、季節や成長段階でその成分が変化するという。基本的には胞子が出来るまでは虫などに食べられないように防衛し、胞子が出来るとそれらの成分を弱めて虫などを引き寄せることで胞子を広げてもらうのだという。金沢大学の都野展子准教授のキイロスッポンダケの研究によると、普段はキノコを食べないような虫まで引き寄せる化学物質を分泌するという。キノコは化学物質で動物の行動を制御するのだという。番組では有毒のベニテングダケを鹿が食べている映像が登場したが、胞子を散布する時期になると毒性が弱まるのだそうな(と言っても、だから人間が食べられるわけではないと思うが)。

 キノコと言えば、地表にニョキッと生えている部分がそれだと思われるが、実際は地中に蔓延る菌糸の方が本体であり、これらが他の菌糸と接合して胞子を作るための子実体を作ったものが、我々が一般的にキノコと呼ぶものである。つまり実はこれはキノコにとっては実にあたるという。これらの子実体からは様々な方法で胞子が拡散し、その効果によってキノコは地球表面のあらゆるところ(砂漠にさえ存在するという)に拡散しているという。世界で知られているキノコは2万種あり、未分類のキノコなどを含めると10万種はあるという。

 

 

様々な生物と共生し、地球環境にも影響を及ぼす

 またキノコは森の樹木と共生関係にあるという。樹木中のリグニンを効果的に分解できるのはキノコぐらいだという。だから3億6千万年前ぐらいのキノコがリグニンを分解できなかった時期には、地上に大量の樹木が蓄積してこれが石炭となった。しかし2億9千万年前にリグニンを分解できるキノコが登場して、森の栄養の循環が行われるようになったのだという。

 マツタケのように樹木と直接に共生しているキノコもあるが、それ以外にもヒトクチタケは空洞の内部に昆虫を住まわせて、胞子を散布させるのだという。またナガエノスギタケはモグラの糞を栄養にしている。モグラにとっては糞を分解することで巣内が清潔になるというメリットがある。またオオシロアリタケはタイワンシロアリと共生関係にある。タイワンシロアリはリグニンを分解できないので、木を食べた後に偽ふんを排出し、これをキノコが分解し、シロアリは分解された偽ふんと菌糸を食べることで栄養を得るのだという。

 さらにキノコが天候に影響を与えているという研究報告もある。キノコやカビの胞子が上空で雨を降らせるための氷晶のための核になるのだという。気温-15度以下の上空では鉱物などが核になることが知られていたが、それよりも高度が低い域では何が氷床の核になるかは不明だったのだが、近畿大学の牧輝弥教授が500メートルの上空の大気からキノコの菌糸を発見したことで、これらが氷晶の核になっている可能性が浮上したという。その後の研究によってもキノコの細胞が水を凍らせやすくすることも確認された。さらに雨によってキノコの胞子が拡散した可能性もあるという。

 

 

 以上、キノコについて。内容的には以前に放送されたヒューマニエンスの真菌の回と被る部分が一部あった。

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 キノコの胞子が気象に影響を与えているという話は以前に聞いたことがあると思ったが、私のバックナンバーをひっくり返しても該当がない。どうやらここでは扱っていない「ガリレオX」での話題だったような気がする。あの番組、フジ系にしたら珍しいまともな番組なんだが、スポンサーがDHCという差別企業だったから扱ってなかった。しかしいつの間にかスポンサーからはずれたみたいだからもう扱っても良いんだが、正直なところ日曜日は忙しくてなかなか番組を加える余裕がないんだよな。最近は本業の方の負荷が増しているせいで、このブログからフェードアウトしてしまった番組もあるし(古くからの読者の方なら何かは分かるでしょうが)。

 で、今回の内容であるが、真菌類は生態系においてかなり重要な位置を占めているのは間違いない。基本的には森の環境下で彼らが繁殖することによって、ようやく生態系が真の意味で回転できるようになったと言うことである。私は以前から「石炭は木の化石だと言うが、何でそんな莫大な量の木が残ってるの」と疑問を持っていたのだが、石炭紀以前には木材中のリグニンを分解できるものがいなかったと言われて初めて納得した。ということはあの時代には木材は「腐食しない材料」でもあったわけか。

 そういう意味では、今社会問題となっているプラスチックも数千万年単位の時を経たら分解する生物が登場するのだろうと思われるのだが、残念ながらその前に人類が滅びてしまうだろう。その後にもし地球上に再び知的生命体が現れたとしたら、膨大なプラスチックの化石を発見して、この時代を「プラスチック期」なんて呼ぶのだろうかと妄想する。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・キノコは成長に応じて化学物質が変化するなどして、動物をコントロールして巧みに繁殖に利用している。
・また我々がキノコと呼んでいる部分は子実体と言われる実にあたる部分で、キノコの本体は地中に張り巡らされた菌糸である。
・キノコは森の樹木と共生関係にある。まだ樹木のリグニンを効果的に分解できるのはキノコしかおらず、かつてキノコがまだその能力を獲得する以前には膨大な量の木が地表に蓄積し、それが石炭の原料となった。
・さらに動物と共生関係にあるキノコも存在する。
・空中に飛散したキノコの胞子が、降雨のための氷晶の核になるとも推測されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・地味ではあるが生態系に欠かせない生物ではあります。ちなみに栄養的にもビタミンDを含むなど、地味ですが欠かせないもので、また薬として用いられているキノコも多く存在します。もっとも薬に用いられると言うことは、当然のように猛毒のものも多いのですが。
・なおベニテングダケに含まれる毒成分のイボテン酸はグルタミン酸の10倍といううまみ成分であり、ベニテングダケは非常に美味だとか。ただし確実に中毒を起こすとのこと。さすがにフグ毒のように毒を除いて食べられるものでなく、毒成分そのものが美味いなんてものを食べる気はしませんが(笑)。
・まあグルタミン酸も脳神経に悪影響をするという説があるぐらいだから、その10倍も作用が強いんだったら神経毒になるってことも何となく感覚的には理解できるな。

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