教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

6/23 NHK-E サイエンスZERO「生命をつなぐ神秘のパワー 味覚」

味覚と進化の関わり

 五感の一つである味覚が、実は生物の進化においてかなり重要な役割を果たしているという話。味覚は味蕾で知覚されるが、味覚受容体が発見されたのはわずか25年前とのこと。だから味覚に関してはまだ研究が進んでいる状況だという。

 類人猿にはリスザルなどの小型の猿とチンパンジーやゴリラのような大型の猿がいるが、それぞれ好む餌が違うのだという。小型の猿が好むのはミルワームなどの虫であるが、大型の猿は葉っぱなどの植物を好んで食べる傾向があるという。この違いは最近の研究で進化と関わっていることが分かってきたのだという。

 明治大学の戸田安香特任講師によると、18種の霊長類の「うま味」の感じ方を解析したところ、小型の猿では昆虫などに含まれるヌクレオチドに強く反応することが分かったという。これは猿の祖先が昆虫を主な餌にしていたことを受け継いでいると考えられるという。これに対して大型の霊長類はグルタミン酸に強く反応するということが分かったという。この変化はうま味の受容体の変化に伴うという。小型の猿のうま味受容体はグルタミン酸は電荷で反発するのに対し、大型の猿ではうま味受容体が中性であることから、グルタミン酸を受け入れることができるのだという。この変化が食糧の変化を促したのだという。食べ物の幅を広げることで大型化が可能になったと考えられる。

 さらに鳥類の半分を占めるスズメ亜目も、味覚が繁栄の理由となったという。鳥類は肉食の始祖鳥の末裔で、始祖鳥は甘味受容体を持っていないことから鳥類も甘味受容体は持っていなかった。しかし研究の結果、スズメ亜目は糖を感知できるように進化していたのだという。糖を食糧に出来ることで食糧の幅が広がってこれが繁栄につながったのだという。

 

 

動物の味覚の調査法と味覚障害の治療法

 動物の味覚の調査であるが、現在は遺伝子情報から人工的に味覚を再現する方法が主流だという。これは実験用細胞に遺伝子を投入することで味覚受容体を発生させ、これが働いたときに色が変わるように調製するという方法である。ただしこの方法で測定できなかったのが反応が微弱なうま味だった。ここで戸田氏は発光たんぱく質を用いてうま味受容体が働いた時に発光するように調製して、それを検出できるようなシステムを開発したのだという。この方法は動物の人工母乳の開発などにも応用できるのではという。

 近年問題となっているのが味覚障害である。高齢化によって味蕾の機能が衰えることで味覚障害が発生するという。これを治療する方法を研究しているのが東京農業大学の岩槻健教授。彼は培養した味蕾の移植で味覚を復活させる方法を開発している。動物などから採取した味蕾の細胞は培養が難しかったことから、味蕾の幹細胞を見つけようと考えたのだという。しかし幹細胞の発見が非常に難しかったのだが、2007年に海外の研究チームがマウスの小腸で幹細胞を特定する方法を突き止めたことから、同様の方法で味蕾細胞も発見して培養が出来ると考えたのだという。そもそも小腸と舌は進化において同じルーツを持っていることから、全く同じ方法かが適用が出来たのだという。こうして2014年にマウスの味蕾の培養に成功、2016年には猿でも成功し、現在は人によるものを目指しているという。

味蕾の移植で味覚障害の治療を行う

 

 

 以上、五感の中では比較的マイナーな感覚である味覚について。味覚が進化と相関しているという観点は非常に面白いとは思う。ただ今回の主旨は「味覚が変化することで食糧の幅が広がって進化につながった」というものであるが、私が思うに実際は「食糧の幅を広げようとした結果、味覚がそれに合わせて変化した」ではないかと思うのだが。昆虫類を食べていた小型の猿が、他と競合しないでより食べやすい食糧として葉っぱなどに目をつけて食べているうちに、味覚がそれに合わせて変化したという順ではないのかと思うのだが。

 それにそもそも味覚が変化しても、消化器官の方が対応しなかったら食べても吸収できない。だからやはり新たな食糧として別のものを食べる種が登場して、身体がその食糧に適応する一環で味覚も変化したと考えた方がスムーズな気がする。まあ確かに突然変異的にまず味覚が変化するという可能性もないではないが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・最近になってようやく研究が進んでいるのが味覚の世界である。
・小型の猿は主に虫を食べるのに対し、大型の猿は植物を食べることが多い。これらの猿の味覚を調べたところ、小型の猿ではヌクレオチドにうま味を感じるのに対し、大型の猿ではグルタミン酸にうま味を感じるように味覚が変化していた。
・また鳥類の半分を占めるスズメ亜目では、他の鳥類が持たない甘味受容体を持つことで糖を食糧にすることで食糧の幅を広げた。
・動物の遺伝子情報からその味覚を調査する研究方法が開発されている。
・近年問題化している味覚障害の治療のために、味蕾の幹細胞を培養して移植する治療法の研究が進んでいる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・味覚は摂食と密接な関係があるので、摂食を促すためには確かに味覚の進化は必要でしょう。ただ野生ではやむにやまれぬ状況で、美味く感じないものでも食べてみる必要があったのではという気もするのですが・・・。人間でも飢饉の際には草や根などを食べた例もありますから。

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