教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/10 NHK 歴史探偵「恐竜大国ニッポンの原点」

「恐竜」の呼び名の元

 

 現代の日本は恐竜ブーム(ということらしい)。そこで今回はその恐竜ブームの原点に迫るとの話らしい。まあ夏休み企画である。

 まず恐竜という存在であるが、最初にいきなり登場するのがゴジラ。ゴジラは恐竜が放射能で怪獣になってしまうという発想から登場しているという。

 で、番組では予想通りというかお約束の福井の恐竜博物館を訪問。大勢の入場者が訪れて人気の博物館だが、ここには日本で初めて恐竜という言葉が登場した本が所蔵されている。それは明治28年(1895年)に出版された「化石学教科書」だという。小中学校向けの理科の教科書らしい。書いたのは旧帝国大学理学部教授で恐竜学の父とも言われる横山又次郎博士。そもそも1842年にイギリスで太古の古代生物にDinosaurと名付けられたのだが、ヨーロッパで恐竜のことを学んだ横山博士は、帰国するとこのDinosaurを「恐竜」として紹介したのだという。ただDinosaurの元々の意味は「恐ろしいトカゲ」という意味らしいのでどうやら意訳らしい。なおそのために当初は日本の学会では蜥蜴から「恐蜥(きょうせき)」とか「恐蜴(きょうえき)」という候補も出たらしい。しかし横山博士が「恐竜」にこだわった結果、これが定着したとか。

日本恐竜学の父・横山又次郎博士

 

 

日本人と龍の関わり

 横山が龍にこだわったのは長崎の出身であることが関係しているという。確かに長崎には龍を祀った祭が存在する。また長崎に限らず龍に纏わる伝説や祭などは多く、その辺りから太古の巨大生物を創造する時に龍というイメージになったのではという。

 なお龍が実在した証拠とされるものも各地にあったりする。千葉県の栄町は龍伝説があり、地域のゆるキャラも龍を題材にした龍夢(ドラム)君だそうな。

栄町の地域キャラの龍夢くん

 この地の龍角寺には龍の頭骨とされる骨が宝として受け継がれているという。生物学に詳しい人なら、何の骨かはすぐに分かるんだろうが。この龍は干ばつに困っていたこの地に雨を降らして住民を救ったが、天の罰で八つ裂きにされたので、住民達はそれを祀って龍角寺、龍福寺、龍尾寺を建てたそうな。なお龍の骨が伝わっているのはここに限らず、全国にあるという。大津には開墾中に龍の骨を見つけて藩に届けた功績で「龍」の姓をもらった人もいるらしい。なお国立博物館によると、これは象の化石なんだとか(専門家でない私でも歯で想像ついたな)。

 なお栄町の布鎌地区は昔から洪水に悩まされた地域であり、田畑を守るための堤などが築かれているが、川の増水時に高い地の農民が自らの田畑を守るために堤を切って低い地に水を溢れさしたりするため、住民同士の争いが絶えなかったという。夜中にひそかに堤を崩そうとしていた高地の人に、低地の人が親しげに接近してカエルを煮出した茶を振る舞って腹を下させたなんて話まであるとか。この地域で地域が協力できるように建立されたのが龍を祀った水神社であるという。龍に対する信仰で地域が結びついたとのことだが、単に龍を祀っただけで地域がまとまるとも思えないので、多分地域のカリスマが地域の人を率いて堤防を強化するなどの治水対策を行ったのではという気がする(そしてその記念が水神社)。

 

 

 と言うわけで恐竜から始まったが、結局はそれとは全く無関係な各地域における龍伝説についての話になったのが今回。まあ内容としてはこれはこれで面白かったから良しか。昔から龍と言えば雨などの水を司る神獣なので、これは昔の人々の生活がいかに天候などに支配されていたかを覗わせるものである。なお本格的に天候が荒れ狂うと、今日の技術を持ってしても対応には限界があるのが現実。

 今回の恐竜の名前の由来なんかはなかなかに興味深かった。なお「恐蜥(きょうせき)」とか「恐蜴(きょうえき)」だと何のことやら分からんから、私がネーミングしたなら「恐蜥蜴(おどろとかげ)」とかがオチで、ダサすぎて今日の恐竜ブームはなかったもしれない(笑)。ちなみに龍と蜥蜴は生物的に明確な差があり、龍に対して「この蜥蜴野郎」と罵るのは挑発の定番(人間に「この猿野郎」と言うのと同じ)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・恐竜は、1842年にイギリスで太古の巨大生物についてDinosaurと名付けられたものを、日本の恐竜学の父と言われた横山又次郎博士が命名した。
・直訳では「恐ろしい蜥蜴」という意味であったが、横山はあえて日本人に馴染みの深い龍を名前に入れることにこだわった。
・日本では各地に龍伝説が残っており、千葉には人々のために雨を降らせて天罰で八つ裂きにされた龍を祀る神社があり、龍の頭骨とされる骨が伝わっていたりする。
・龍は地域のシンボルとしても信仰されており、水害で地域内の争いが絶えなかった布鎌地区では、龍を祀った水神社を建立することで地域が結束するようになった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・恐竜が日本で現在ブームかどうかは知りませんが、確かに特に子供層には圧倒的人気のあるコンテンツなのは間違いない。
・私は昔から日本で混雑する展覧会は「エジプト・浮世絵・印象派」と言っているが、これが子供版になると「恐竜・鉄道・アンパンマン」となる。
・ゴジラとかもう少し突っ込むかと思ったんだが、そこのところはあっさりと流してしまって、結局は恐竜の話は半分もなくてただの枕だったというオチでした。これだったら今回のタイトルは「日本人と龍」だわな。

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