自らひび割れを埋めるコンクリート
広く建材として使用されているコンクリートであるが、問題となるのは劣化によるひび割れ。鉄筋コンクリートがこうなると内部の鉄筋が錆びてコンクリートが割れたりすることにつながるので、定期的な補修が必要であってメンテナンスコストがかかる。これをコンクリートが勝手に修復するようにするという研究。
自己治癒コンクリートが開発されたのはオランダ。海洋生物学のヘンドリック・ヨンカース准教授が、炭酸カルシウムを合成するバクテリアをコンクリートの中に加える方法を開発したのだという。用いたバクテリアは好アルカリ性バシラス属というバクテリア。ただしこのバクテリアをそのままコンクリートの中に加えたのでは餌がないためにすぐに死んでしまう。そこで一工夫が必要だったという。
生分解性プラスチックの粒の中に、バクテリアとその餌を加える。すると通常状態では酸素がないためにバクテリアは休眠状態にあるが、コンクリートにひび割れが出来て外から酸素と水が入ってくることでバクテリアが目覚め、餌を食べて炭酸カルシウムと二酸化炭素を生成するのだという。そしてこの炭酸カルシウムがひび割れを埋めると酸素がなくなるのでバクテリアは再び休眠状態に入る。これでバクテリアは200年は生存し続けることが出来るという。
このコンリートの実用化の研究は日本でも行われている。当初はプラスチックのペレットを加えたためにコンクリートの見た目が悪く実用化出来なったのであるが、ペレットを粉末に変更したことで見た目も性能も問題のないコンリートが出来上がったという。水路用など水が十分ある場面での活用が期待されている(コンクリートの修復に大量の水が必要なので、空気中の水分だけでは不足らしい)。なおあくまでひび割れを埋めるだけなので、コンクリートの強度は回復しないが、内部の鉄筋のさびを防げれば鉄筋コンクリートの強度はコンクリートのひび割れでは影響しないので、鉄筋コンクリートへの適応が期待されている。
ジェットエンジン用の自己修復するセラミック
次に登場するのは自己修復するセラミック。この材は金属よりも重さが1/3程度しかないため、航空機エンジンのタープファンへの使用が期待されているという。使用温度1000度という高温下で、ひび割れなどを1分程度で修復できる材が開発されている。またこの材のポイントは、修復することで強度が回復、どころかむしろ丈夫になるという。実際にワザとキズを与えて修復させてから力を加える実験を行ったところ、セラミックはキズを入れたところと別のところで破壊されている。
これも従来の材では1000度での修復に1000時間ぐらいかかったという。しかし修復のメカニズムを解明することでブレークスルーにつながったという。物質・材料研究機構の長田俊郎主幹研究員の研究の結果、炭化ケイ素とアルミナからなるセラミックにひびが入った時、ひび割れ部に液体状の二酸化ケイ素が発生し、それが結晶化することでひびを修復していることが分かったのだという。二酸化ケイ素が液体状になるには微量のアルミナが影響していることが判明したが、アルミナが液状になるには1000度近くの温度が必要なため、1000度の温度下では修復に長時間が必要であることも分かったという。そして更なる研究の結果、酸化マンガンを用いればより高速に液状化を起こせることが分かったのだという。この酸化マンガンは炭化ケイ素とアルミナの界面上に網目状に広げており、セラミックにひびが入る時にはこの界面でひびが入ることから、どこにひびが入っても速やかな修復が可能となるようになっているという。
最先端の材料技術についてでした。以前にも言いましたが、こういう最新技術の紹介こそこの番組の真骨頂。内容的にも非常に興味深い上に分かりやすくて実によかったと思います。こういう自己治癒性の材の実用化が進むと、メンテナンスコストを劇的に下げることが出来るので、かなり期待される技術です。今は各国でインフラの老朽化が問題となっているので、そういうインフラが自己修復できるようになれば実に有用。
忙しい方のための今回の要点
・コンクリートは老朽化によるひび割れなどが問題となるが、現在自己治癒性のコンクリートが実用化されつつある。
・このコンクリートには炭酸カルシウムを生成するバクテリアが加えてあり、ひび割れから酸素と水が入るとバクテリアが炭酸カルシウムを生成してひび割れを塞ぐメカニズムとなっている。
・航空機用ジェットエンジンのタービン用にも自己治癒性のセラミックの適用が検討されている。このセラミックは1000度で1分ほどでキズなどの修復が可能である。
・このセラミックを使用することで、軽量化により航空機の燃費が15%ほど向上することも期待できるとのこと。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・自己治癒とかしだしたら、自分で修理する機械とか、生きている金属とかそういうのを連想しますね。いよいよ無機物と有機物との間がボーダーレスになってくる。生きている金属と言えば大昔に「アストロガンガー」というアニメがありました・・・ってあまりに古すぎてほとんどの方は知りませんよね(笑)。
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