教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/28 BSテレ東 ガイアの夜明け「争奪!"絶品"グランプリ~新時代の農家「スター誕生」」

「にっぽんの宝物」をきっかけに飛躍した農家たち

 六本木の高級食材を扱う商店で人気の高級ヨーグルト。これを作っているのは熊本の農家の大藪裕介氏。元々は個人の畜産農家で良質のヨーグルトを作ってはいたが、収益も微々たる物だったという。この大藪氏のヨーグルトが注目を浴びることになったきっかけは「にっぽんの宝物」グランプリ。7年前に始まった全国の農家がグルメで競い合う大会だという。昨年のこの大会で大藪氏のヨーグルトがグランプリを獲得、一気に販路が全国に広がったのだという。大藪氏は8000万円を投資してヨーグルトを製造する工場を建設、従業員も新たに雇用して、現在は売り上げは年間1億5千万に及ぶという。

 またにっぽんの宝物で特別賞を受賞した沢渡の茶大福は、年間10万個を売り上げている。これを作ったのは高知県の茶農家の岸本憲明氏。かつては年間の売り上げは80万円程度だったそうだが、今は年商は100倍にもなったという。今や茶大福は香港のスイーツ店でも採用されるなど世界進出を行っている。

 

「にっぽんの宝物」仕掛け人の思い

 「にっぽんの宝物」の仕掛け人は羽根拓也氏。企業の人材育成などを手がける仕事をしている人物で、にっぽんの宝物に関しては手弁当に近いという。彼がこのような企画を実践したのは、日本の各地には優れた宝物があるのに、後継者がいないとか事業として成り立たなくて消えようとしているものがあるので、それを何とかしたいという思いからだという。

 「にっぽんの宝物」のシステムは、まず各地でセミナーを行う。ここには農家だけでなく、シェフやデザイナーなどといった異業種の人も参加して、アイディアを出し合ってコラボするのだという。一人では考えつかないようなアイディアを出して、それを各地方大会で競い合い、次に全国大会を実施、そして全国大会の上位5組はシンガポールで開催される世界大会に出場するのだとのこと。

 

この大会に懸けたメロン農家の女性

 この大会に特別の思いで取り組む女性がいた。栄木志穂氏、長崎県雲仙の農家の実家で農業を行っているシングルマザーの女性である。彼女の父である正孝氏は非常に品質の良いメロンを栽培しているのだが、夫婦二人で作っているために大量生産は出来ないことから、生産した800個を近所にだけ販売しているという状態なのだという。彼女は父にメロンの作り方を教えて欲しいと頼んだらしいが、「雑なお前には無理だ」と拒絶されたとのこと。収入が少なくて生活も苦しい彼女は、父のこのメロンを何とかして商品化できないかと思ってセミナーに参加したのである。

 志穂氏は地元で100年の歴史を持つ造り酒屋吉田屋とコラボして新商品の開発に臨むことにした。彼女は父から「これだったら好きにしても良い」と言われた摘果メロン(間引いたメロンである)を持って吉田屋を訪問。吉田屋の方では酒粕を用意しており、これを使って摘果メロンの奈良漬けを試作することに。さらにはメロンに甘酒や日本酒を組み合わせたカクテルを用意した。

 そして地方予選に挑む志穂氏。そこには孫に連れられて会場に見に来ていた父の正孝氏の姿もあった。そして彼女の商品は準グランプリを獲得、全国大会進出を決定するのだが、そこには正孝氏の姿はなかった。ハウスに戻った正孝氏はメロンの収穫作業にいそしんでいた。彼は志穂氏のために完熟したメロン30個を用意することにしたという。これを使えばもっと美味い物が出来るはずだとのこと。志穂氏の必死さが正孝氏の考え方も動かしたようである。

 

全国大会で無念の結果からの予想外の大逆転

 完熟メロンを携えて全国大会に挑む栄木父娘。今回は完熟メロンにそれを使用したカクテルを用意して臨む。審査員の反応は上々、だが惜しくも世界大会進出は逃してしまう。ガッカリする栄木父娘だが、そこで思いがけない展開が発生する。シャングリラホテルの日本支配人が声をかけてきたのである。栄木氏のメロンを是非ともホテルで出したいというのである。2ヶ月後、緊張の面持ちでシャングリラホテルに赴いた栄木父娘はホテル内の「なだ万(高級料亭である)」に通されて、そこで栄木氏のメロンを使用したカクテルを料理長から出される。料理長は是非とも来年もメロンを使用した新メニューを出したいとのこと。

 これで感激したのか、栄木正孝氏は娘の志穂氏と孫にメロンの作り方を指導する気になったようである。来年からは増産の必要もありそうだし、新しいハウスも用意している。

 

 零細農家がチャンスをつかむ可能性についての物語。実際に現在の日本の農家はビジネスとして成り立っていないところが多く、老人の趣味でやっているに近いところが多い。しかもそういうところに限って品質の良いものを作っていたりする。そういうのを何とか出来ないかという気持ちは私もあったのだが、ビジネスマインドも行動力も皆無の私には何も出来ないでいたのだが、こういう風にビジネスの面から取り組む人がいるというのは実にありがたい話である。こういうことが日本の農業をビジネスとして見直すきっかけになればと思うところである。

 とりあえずきっかけはつかんだ栄木父娘であるが、まだまだ難しいところはある。増産と品質の維持をどう両立するかである。増産を優先して品質が落ちれば失速は必死なんだが、そうならないように増産していく工夫が必要となる。この辺りで志穂氏がどこまでがんばれるか。しかしここでビジネスとして成立する土壌が出来れば、将来は孫が農家を継ぐという展開があるだろう。現在農業が後継者不足で苦しんでいるのは、農業が魅力がないと言うよりも、そもそも事業として成り立っていない、端的に言えば食っていけないから仕事にならないのである。そこさえ改善すれば、農業を天職として選択する者は決して少なくないと思う。都会の窮屈なオフィスでクソ上司に邪魔をされながらストレスを溜めて仕事するよりも、農業に魅力を感じる人もいるだろう。そういう人たちのために、農業が仕事として成立するようにすることはこの国の将来を考えると非常に重要なところである。

 

忙しい方のための今回の要点

・全国の農家が異業種などとタイアップして新商品を開発して味を競う「にっぽんの宝物」グランプリを契機に全国に販路を拡大する農家が登場している。
・この企画の仕掛け人である羽根拓也氏は日本の各地にある宝物が事業として成り立たなくて消えていくのを何とか救いたいと考えたのだという。
・今回この大会に参加したメロン農家の栄木父娘も、この大会をきっかけに新しい事業の可能性をつかむことになった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・こういうのはまさにビジネスマインドというやつでしょうね。農業に限らず、もっといろいろな分野で日本の地方にある優れた物(例えば工芸品なんかもありますね)に正当な評価を与えるきっかけを作っていけたら良いのですが。今のうちに何とかしないと、早晩後継者不足などでいずれも滅びる危険がありますから。

 

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