教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/3 BS11 歴史科学捜査班「軍事戦術学で検証!信長『三段撃ち』の真偽」

三段撃ちは本当にされたのか?

 織田信長が武田勝頼の騎馬隊を3000丁の鉄砲で撃ち破った設楽が原の戦い。この戦いにおいて、信長は一度発射すると次弾を装填して再度発射するまでの隙が非常に大きい鉄砲の弱点を補うため、鉄砲隊を3列に分けて射撃させたという三段撃ちを用いたと言われている。しかしこの三段撃ちが本当に可能だったのかについて番組で検証している。

 今回、この実験に協力したのは川越藩火縄鉄砲隊保存会の面々。まずは火縄銃の装填にどれだけの時間がかかるかを測定しているが、火縄銃の扱いには慣れている彼らでも42秒を要している。火縄銃はまず火薬と玉をつめてからそれを棒で押し固め、火蓋を開けて口薬を入れてから閉じる。さらに火縄を取り付けて火蓋を切ってから引き金を引くと非常に手順が多いのである。

 設楽が原の学芸員の方は「三段撃ち自体は決して難しいものではないが、他の問題がある」と指摘している。設楽が原には2キロの馬防柵を設置したとされているが、すると1000人が横並びになると隣との間隔は2メートル。結構開いているような気がするが、火縄銃は発射の際にかなりの火花や煙が飛び散るので、そのくらいの間隔は空けないと危ないのだとか。

 

火縄銃の殺傷能力

 ではこの火縄銃の殺傷力がどの程度かというのを番組では実弾を使用して実験しているが、50メートル離れたところから射撃したところ、鎧に使われる鉄板は歪みはするものの貫通することは出来なかったという。つまりはこの距離で敵を殺傷するには鎧の隙間を狙うしかないが、それだけの精度が火縄銃にあるかは疑問(火縄銃の弾は球形のため、空気抵抗も大きくて弾道は山なりになるので、これを命中させるのはかなり困難。回転しながら直線上に飛ぶ現代のライフルなどとは根本的に違うのである。)。そのためにかなり敵を引きつけてから射撃したのではと考えられている。

 なお信長が3000丁もの鉄砲を揃えられたのは信長の経済力と、国友という鉄砲の大生産地を抑えていたということが大きいという。当時の鉄砲の価格は一丁辺り40~50万円程度と考えられるので、3000丁の鉄砲となるとそれだけで12億円以上の予算が必要だったわけである(さらにこの上に弾丸と火薬も調達する必要がある)。

 

実験の結果は

 さて実際に三段撃ちが出来たかどうかであるが、先の川越藩火縄鉄砲隊保存会の面々が四苦八苦して実験したところ、移動の際に衝突したりなどなかなか困難。ただいろいろと戦略を練って方法を考えていったところ、とりあえず不可能ではないという結論とはなった。ただ実際に火縄銃を撃つと火薬の煙が辺りに立ちこめて視界は悪いし、当然喧しいしということなので、号令一下で団体が整然と行動することは不可能だろうと判断された。これから至った結論は、銘々がそれぞれ弾込めをし、準備が整った兵から順次撃っていったのではないかというもの。まあこの辺りが妥当な結論だろうとは私も思います。

 なお私は三段撃ちについては別の説も聞いたことがあります。それは3人が1組となって、最前列の討ち手が射撃後、銃を後の2人の込め手に渡し、装填が終わった銃を受け取って射撃していたというもの。つまり兵が移動せずに決まった人間が討ち手となって銃をグルグル回していたという理屈。私はこっちの方があり得るんじゃないかなと感じています。

 

忙しい方のための今回の要点

・織田信長が武田勝頼の騎馬隊を打ち破ったとされる三段撃ちについて、実際に可能であるかどうかを実験で確認した。
・番組の実験の結果では「不可能ではないが、火薬の煙などで視界も非常に悪くなることなどから、整然と団体行動をとるのは不可能」という結論である。
・ここから銘々が弾込めが終わったものから撃っていたのではという推測をしている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・信長が三段撃ちを本当にしたかどうかは怪しいですが、3000丁の鉄砲(この数字も怪しいところがあるようだが、とにかく多くの鉄砲)を集めて戦場に投入したというところがすごいところでしょう。さすがに1000丁単位の鉄砲が一斉に火を吹けば、その第一射だけでもかなりの被害は出ますから。

 

前回の歴史科学捜査班

tv.ksagi.work