教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/12 NHK ガッテン「寝たきり予防の最新メソッド"小脳力"トレーニングSP」

転倒防止のための小脳力強化

 高齢者にとって恐いのは転倒。若者にはたかが転倒のような気がしてしまうが、これがきっかけで骨折などをしてしまい、そのまま寝たきりになるという事例が多い。実際に年間9308億円もの医療費や介護費用が転倒が原因となって発生しているという。転倒を防止するにはどうしたらよいか。まず一番に上がるのが足の筋力の強化。この番組でもその方法は様々紹介している(インターバル速歩など)。しかし今回は別の観点から転倒防止を訴える。

 今回取り上げたのは「小脳」。小脳の能力が低下することで転倒しやすくなるというのである。ではこの小脳の働きとはどういうものかということを、番組の坂井信二郎ディレクターが突然登場して紹介するのだが、実際にはこのとんでもない実験を体験するのは、番組専属モルモットの宮森君である

 

逆さ眼鏡実験で分かる小脳の働き

 モルモット宮森君が体験した実験とは、上下が逆さまに見える逆さ眼鏡をつけて一週間生活するというとんでもないもの。これをつけると視界が上下逆さまになるわけだから、床は上に見えて、自分は空に立っているような状態に見えてしまうのである。おかげでサッカーが得意という宮森君も、この眼鏡をつけると転がってきたボールをまともに蹴ることもできないという状態。

 これで一週間生活するというのだから大変である。何しろ蕎麦を食べようにもつかんだ蕎麦をつゆにつけるのもままならなくて、一皿食べるのに30分かかるという状態。歩くにも足下も覚束ないという状態。さすがに彼一人では危ないので番組スタッフが付き添って生活することになる。

 しかし逆さ生活数日で宮森君の様子が変わってくる。最初は覚束ない足取りだったのが、足下がしっかりしてきて普通に歩けるようになってくる。そして一週間後、最初は全く出来なったサッカーも出来るようになり、バスケットボールを投げてもナイスゴール。宮森君によると、最初はわけが分からなかったのが大分慣れたとのこと。

 

小脳が視界のズレを調整する

 実はこの宮森君が体験した実験は、この世界では結構有名な実験の追試である。確かに体験者によると「最初は逆さまに見えていたのが、あるところから普通に見えるようになった」と証言している。なお実験後に眼鏡を外すと、今度はしばらく視界が逆転してしまうわけであるが、これは2~3時間ぐらいで回復したとのこと。

 で、このような状態になるのがまさに小脳の働きのおかげだという。小脳は視界のズレなどを検知して、それを修正する仕事をしているのだという。この小脳が働くおかげで、今回の実験のように天地が逆などと言う視界の滅茶苦茶なズレも修正されたのだとか。

 小脳の働きを見る実験を東京大学心理学研究室の今水寛教授が行っている。それはモニターに現れた光点をジョイスティックでカーソルを動かして追跡するというものだが、実はこのジョイスティックを動かす方向と、実際にカーソルが動く方向にズレを作ってある。当然のように最初はうまく追いかけることが出来ないのだが、時間が経つにつれてズレが修正されていくのだとのこと。そしてその時の脳の働きを見ていると、最初は非常に活発に働いているのが、ズレが小さくなる(つまり慣れる)と共に脳の働きは低下していくとのこと。

 

姿勢の調整にも小脳が働く

 さらに小脳は姿勢のズレなども検出しているという。だからつまづくなどで姿勢が崩れた時、ただちにこれを建て直すという作業も行う。しかし小脳の働きが低下すると、この姿勢の立て直しが出来なくてそのまま転倒ということになるのである・・・ということを安っぽいロボットのような被り物をした宮森君が実演しているのだが、正直なところこの被り物は意味がない(笑)。

 そこで番組では被験者を集めて小脳の働きの実験を実施している。実験に使用したのは転倒実験用のウォーキングマシン「転ぶ君」。このシステムは至って単純で、普通のウォーキングマシンのようにローラーの上を歩くのだが、この足下のローラーが左右で分かれているのがミソで、突然に片側のローラーが一瞬止まるということが起こる。つまりはつまづいたのと同じ状況になるわけである。ここで小脳の働きが正常な人は問題なく歩けるのだが、小脳の働きが低下している人は多く体勢を崩してしまうというわけ。体の姿勢のズレを検出することで小脳の働きが分かるのである。

 これで成績の非常に悪かった46才の女性の生活を番組では追跡しているが、彼女は犬の散歩を日課にしていて、ラテン系のダンスの教室に10年ぐらい通っているとのことで、結構運動はしているので体力には自信があるという。実際に測定すると足の筋力については女性の平均値レベルあるし、スピードを分かるテストでは平均値以上と運動能力的には悪くない。しかし小脳力測定装置でテストすると、小脳力が低下していることが判明した。なおこの小脳力測定装置とは、画面に現れた光点を手で触るというものだが、この時につける眼鏡がポイントで視界が微妙にずれようになっている。つまりこのズレをどれだけの時間で修正できるかで小脳の能力が分かるというわけである。小脳の働きに問題がない人だと、一定時間内に誤差がある幅の中に収斂するのだが、彼女の場合は時間が経ってもなかなかズレが収斂しない。

 

小脳力測定のための簡易テスト

 ここで先ほどの装置を開発した東海大学付属病院耳鼻咽喉科の五島史之准教授が登場するのだが、小脳の能力が低下する原因は、加齢、アルコールの摂りすぎ、運動不足などがあるという。で、先ほどの女性を考えると、運動はしている、加齢というほどの年ではない、となるとアルコールを摂りすぎてるのか?と考えてしまうのだが、番組ではその点は触れない(笑)。

 お手軽に小脳力を調べる方法として提案しているテストがある。それは両足を縦に一直線に並べ(綱渡りでもする感じ)、腕を組んで目を閉じて20秒立っていられるか。これがやってみると意外に大変で、私などは10秒も持たずにふらついてしまいました。道理で年がら年中目眩がしているわけである。

 番組ではこのテストを大勢に実際にやってもらったようであるが、その結果によると全体の4割ぐらいがアウトで、しかも年齢とはあまり相関性は見られなかったらしい(20~30代という若者でもやはり4割程度がアウト)。

 

小脳力回復のための小脳トレーニング

 さて転倒の原因が分かったところで、当然のように番組ではその対策を提案してくる(これがないと番組が成立しない)。簡単な小脳トレーニングを紹介。その方法とは、まず両手の親指を立てて両手を肩幅ぐらいに広げて前に出す。そしてこの親指を顔を動かさずに目で左右と20回なるべく素早く追いかけるのだという。次は左手であごを押さえて(顔を動かさないように)右手を前に出して左右に動かしながら、その親指の先を見るとというもの。以上を20回ずつ3セットを1日3回行うとのこと。なお「めまいがすることがあるので座ってすること」と番組で注釈が出ているが、実際に私も覿面に目眩がしました。それと眼球の筋肉が少々痛い。非常に簡単な運動なのだが、先生によると「つまらないのですぐにやめてしまう人が多い」とのこと(オイオイ)

 で、このトレーニングを先ほどの女性に1ヶ月してもらうと、転ぶ君でも普通に歩けるようになって目出度し目出度しというオチになっている。なおこのトレーニング、怠るとまた小脳力が低下してくるとのことなのでなかなか難儀である。番組では意識的に周囲の景色を眺めながら歩くなどでも小脳力は鍛えられるとしている。やたらにキョロキョロしながら歩く奴は小脳力が高いのか?

 なおこれでめまいが改善したという人も番組に登場している。実際に五島医師が患者に対して行っている方法らしいので、よくある怪しげな健康法なんかと違って効果は間違いなさそうである。逆に言うと、これで改善しない場合は小脳以外に原因があると言うことか。

 

 以上、転倒対策について。医師が勧める方法を紹介というなかなかに手堅い作りとなっておりました。転倒は実際に高齢者にとっては大問題となるので、思い当たる人はやってみるのをお勧めします。なお転倒の原因としては足の筋力の低下というのが非常に大きいので、こちらのトレーニングも合わせて行いましょう。小脳が姿勢の崩れを検知して修正しようとしても、それに対応できる筋力がなければそもそもどうにもなりませんので。

 

忙しい方のための今回の要点

・高齢者の寝たきりのきっかけとなりやすい転倒の原因について、足の筋力の低下だけでなく、小脳の能力の低下も考えられる。
・小脳は視界のズレや体の姿勢のズレなどを検出して修正する能力を持っている。
・小脳の能力が低下すると、姿勢のズレを無意識に修正するということが出来なくなるので転倒のリスクが高まる。
・小脳の能力低下に対しての小脳トレーニングを番組では紹介している。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・この小脳トレーニング、実際にやってみると思っているよりもハードです。私の場合、これがきっかけでめまいが出てしまって、今は視界が揺れてます。もしかして、私の場合は何かもっと他の問題点が発生しているのでは・・・。
・この姿勢を調整するという能力、私のように山城巡りをしている者には非常に重要なのですが・・・。何しろ足下が滑る斜面を上り下りを繰り返すということになるので、この能力が低下すると山中で転倒して負傷することにつながりかねません。そう言えばもっと若い頃は足下を大して気にせずにスタスタ歩けたのですが、最近は足下をかなり注意しないとヤバくなってきたような(特に下りの時が恐い)。

 

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