教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

"理想の職場「幸せ食堂」がコロナショックで倒産の危機に" (6/30 テレ東系 ガイアの夜明け「"幸せ食堂"の365日~コロナで気づいた理想と現実~」から)

残業のない飲食店「佰食屋」

 ステーキ丼で有名な京都の「佰食屋(ひゃくしょくや)」。開店と同時に行列が出来、遠くからわざわざやって来る客までいる人気店である。お目当ては看板メニューのステーキ丼(1100円)。国産の柔らかい牛肉を使用しており人気を博しているが、この店のもう一つの特徴は、100食限定で完売するとその時点で営業終了するということ。11時に開店し、お昼時の12時には既に完売と言うことも。もっと長時間店を開ければもっと売り上げは増すはずなのだが、あえてそれをしないのは100食と限定することで仕込みの手間が省けて従業員の残業をなくせるため。おかげで家庭と仕事を両立できている従業員ばかりである。だから番組ではこの食堂を「幸せ食堂」と名付けて密着取材を行っていた。

 オーナーの中村朱美氏は主婦で二人の子供がいる。ブラックと言われる飲食業界を変革して、従業員にとっても働きやすい会社にすることを考えたのだという。彼女は女性実業家として注目され、数々の賞も受賞している。執筆した本のタイトルは「売り上げを減らそう」という挑戦的なもの。時代の寵児として脚光を浴びていた。がっぽりと儲けなくてもそこそこ儲けて、家族との生活を優先するという働き方の提案でもあった。

 コスト低減の秘密は国産牛を塊ごと仕入れていること。店で加工することでコストを低減している。さらにステーキに向かない部分は挽肉にしてハンバーグに、筋は煮込んでソースに使う。このような材料を無駄にしない工夫でコストを抑えている。そして100食限定だから売り切ったら終了。おかげで従業員は残業がない。

 

さらに新店舗展開をするが、そこにコロナの直撃

 この働き方をさらに広げようとした中村氏はすき焼き店や肉寿司の店も相次いでオープンした。これらの店も大盛況で社員12人、アルバイト12人まで従業員も増えていた。さらに少ない従業員で50食で採算を取れる店舗を計画した。名付けて「佰食屋1/2」。メニューはあえて肉を正面に出さず、カレーなどの少人数で切り盛りしやすいメニューにした。新しい店は出足は順調だった。

 彼女の両親はレストラン勤務だったが、休みは少ないし仕事は忙しいしということで「飲食店は駄目だ」「サービス業は駄目だ」ということを散々聞かされて育ったという。調理師専門学校の広報として就職した彼女は不動産会社勤務の夫と結婚する。しかし二人とも忙しくて自由な時間がなかった。そこで家族と一緒に暮らしたいと「佰食屋」をオープンしたのだという。

 しかし順調だったように見えた佰食屋1/2も2月には閑古鳥が鳴く状態になっていた。肉のイメージが強い佰食屋が、肉から離れたことで客の満足度が低くなってしまったのだという。この事態に中村氏は夫共に新たなメニュー開発に挑む。結局は原点に帰って肉メニューを出すことに。わさびを薬味としたローストビーフ重を登場させる。客の反応は上々。しかし店内はまだ客がまばらだった。この時3月上旬、コロナの影響で京都の町中から観光客の姿が消えつつあった。佰食屋4店舗の売り上げは半減していた。佰食屋は結局は4月11日から4店舗の内の3店舗を休業することになる。

 そして数日後、集まってきた従業員の前で中村氏は苦渋の決断を発表する。正社員12人のうち、7人を整理解雇し、4店舗の内の2つを閉めるという厳しい決断だった。佰食屋は既に倒産寸前の危機に追い込まれていたのである。

 6月、経営を続けている佰食屋1/2で中村氏は敗北の理由の分析を行っていた。しかしこのまま負け続けるつもりはない。次のアイディアを考えていた。

 

需要急増のデリバリーで成長するゴーストキッチンズ

 一方、今回のコロナで急成長したのがデリバリー。これを有効活用しているのがゴーストキッチンズという会社。わずか5坪の厨房で仕出し用の料理を作ってる。ネットで注文を受けると、そこで50種類の料理を作ってウーバーイーツで配送しているようである。

 この会社の特徴は従業員が自由な時間で仕事できること。社長の吉見悠紀氏は労働環境が悪く生産性の低い飲食業界を改革し、みんながハッピーになれるようにしたいと言っている。従業員の中には仕事後に実家の料亭の手伝いをしている社員や、フードカメラマンとしての仕事をしている社員などもいる。

 コロナによる外出自粛で売り上げが3割増になったゴーストキッチンズでは新たなキッチンを設け、さらにメニューを増やすという勝負に出ている。

 

 さて勝負をかけていた佰食屋では客の間隔を開けた上で営業を再開していた。中村氏が取り組んだのは、細かいマニュアルを設定すること。全ての工程を省力化することでさらに効率化を図った結果、45分の時短に成功したという。仕事が早く終わると光熱費も節約できる。利益率を現在の3%から15%引き上げることを狙っているという。いずれはまた新しい店舗をオープンしてかつての従業員を再び雇えたら・・・と考えている中村氏。

 

 今回のコロナで影響を受けた業界は多々ありますが、特に飲食店業界は死屍累々だと聞きます。実際に持ちこたえることが出来なくて閉店した老舗レストランなどの話も随分と耳にします。特に暴利を貪らずに「生活できたらよい」ぐらいの感覚で営業していた良心的な店ほど成り立たなくなってしまっているというのが実態。「体力のない店舗は撤退するのが当然」なんて言う輩もいるようだが、体力があるというのは今まで暴利を貪って金銭を蓄えていたという意味でもあるので、要は「ろくでもない店」である場合が大抵であり、そんな店ばかり残っても仕方ない。あのブラック労働で有名な某居酒屋チェーンなんぞはさぞかし「体力がある」ことだろう。

 今回の佰食屋も利益を追求していない会社なので、通常に営業が回っている時は問題ないが、今回のような異常事態が発生したら途端に厳しい状況に直面したようである。しかもこのような苦境に政府などは完全に無為無策で、自分達の懐を肥やすことばかり考えていたようであるから、当然ながら町中は死屍累々になるわけである。今回のコロナは異常事態であるわけだから、こんな時に資本主義の原理とか自己責任論を振りかざすのは愚かであるとしか言いようがない。

 それにしても従業員が働きやすいようにしようと思えば、利益第一主義では不可能である。しかし儲けることこそ正義のような今の新自由主義が跋扈している世の中では、働き方改革などとかけ声だけ唱えても実現できるわけもない(政府の政策自体はむしろ真逆で、竹中平蔵とかを儲けさせるために奴隷労働を目指す方向の政策ばかり実施している)。そろそろコロナをきっかけにして、世の中のあり方自体を根本的に変えるべき時期に来ていると思われる。とにかく新自由主義なるものは完全な失敗であったことだけはハッキリとしている。

 

忙しい方のための今回の要点

・佰食屋では100食限定にすることでコストや手間を低減して、従業員の残業をなくすというビジネスをしている。
・オーナーの中村氏は自らも子を持つ主婦であり、家庭の生活を大事にしたいとの想いから佰食屋を創立した。
・順調に店舗を増やしていた佰食屋であるが、そこをコロナショックが直撃、各店の売り上げが急減した上に休業に追い込まれ、会社は倒産の危機に瀕し、中村氏は苦渋の決断で4店舗を2店舗に減らした上で社員のほぼ半分を整理解雇することになる。
・現在、佰食屋は営業を再開して再起を期している
・コロナで急増したデリバリー需要に対応したのがゴーストキッチンズ。ここは社員が自由な勤務形態で労働しており、カメラマンと兼業している社員もいる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ、いくら稼いだところで家族と顔をあわせることもなく、自分が稼いだお金を使う暇さえないという生活が幸福な生活かどうかと言う問題なんですね。なかには金自身が自らのステータスであって生きがいの人もいるから、そういう人には別にそういう働き方に反対する気はないが、大抵の人はそういう働き方が幸福とは思っていないわけで。
・しかもそんなハードワークがそのまま自分の稼ぎに直結するならまだ良いが、会社や経営者が儲かるだけで労働者には何も返ってこないという例が日本では多すぎる。そうなると段々と働くことが馬鹿らしくなってくるということになる。

次回のガイアの夜明け

tv.ksagi.work

前回のガイアの夜明け

tv.ksagi.work