教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

"悪のカリスマ、チャールズ・マンソンとは" (8/13 BSプレミアム ダークサイドミステリー「悪魔と家族のはざまに~チャールズ・マンソン危険な誘惑」から)

 終身刑の殺人犯でありながら一種のカリスマとして社会的に評判になって、監獄に毎日多くのファンレターが殺到したという男、チャールズ・マンソンについて。

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27才、獄中のマンソン

 

母に捨てられ、刑務所で過ごした青年時代

 チャールズ・マンソンの母は厳格な家庭を嫌って16才で家出をした少女だった。男の間を渡り歩いていた間に彼女はチャールズを産む。しかし彼女にとってはチャールズはただの邪魔者であり、チャールズはすぐに施設に預けられる。12才の時にチャールズは施設を脱走して母の元に向かう。彼は母の元にさえ戻れば幸せに一緒に暮らせると夢見ていた。しかし息子の顔を見た母は冷たく「なぜ帰ってきた」と罵ると施設に通報をした。裏切られたチャールズはこの時に初めて憎悪という感情を抱いたという。

 その後のマンソンの生活は荒みきったもので20代のマンソンは強盗などの犯罪を繰り返してほとんどを西海岸の刑務所で過ごす人生だった。さすがに嫌気のさしたマンソンは自らの生活を変えようと自己啓発本を読んで人に好かれる方法や人を説得して動かす方法を学んだという。またギターを覚えて作曲を始めたりし、音楽で生計を立てることを考えたという。

 1967年3月、マンソンは32才で出所する。しかし7年ぶりの外の世界は異世界だった。いわゆるヒッピー全盛の時代で、若者たちがマリファナを吸って過去の価値観を否定して自由な生活を送り、親たちの世代と反発を広げていた。彼らの自由で乱れた世界はマンソンにとっては夢のような心惹かれる世界だったという。

 

家出少女達を集めての擬似的家族関係から膨らむ野望と挫折

 マンソンは家出少女達に目をつけ、次々に声をかける。マンソンは女性のコンプレックスをついて巧みに彼女たちに取り入ったという。少女達はマンソンは自分のことを分かってくれていると彼に付いていった。そうしてマンソンは1年ほどで20人ほどの女性や数人の男と共同生活を送る。一種の擬似的家族関係(典型的なカルト教団の構成である)を形成した。その生活は昼はドラッグや音楽に興じ、夜は乱交関係というもの。そして生活費は女性達が親の金をくすねたり窃盗して調達していたという。こういう全能感の中でマンソンはカルトのリーダーに特徴的である「自分は特別である」という思いを強めていったという。

 マンソンは音楽で一発当てることを考える。そしてTHE Beach Boysのドラムスのデニス・ウィルソンと知り合い、彼を例の手口で信頼させると、彼を通して凄腕プロデューサーのテリー・メルチャーに紹介してもらう。こうしてマンソンの野望は達成されるかと思われた。しかしレコーディングになるとマンソンは自分への指示に耐えられないし、彼が提供した曲は作り替えられた上に彼の名前はクレジットされなかった。さらにテリー・メルチャーがマンソンに「君に時間や金をつぎ込むことには意味がない」と最後通牒を突きつける。そもそも彼はマンソンの音楽の才能については「高校生の文化祭レベル」と当初から全く評価していなかったのだという。

 

傷ついた自愛心を癒やすかのような凶行

 巨大な自愛心を傷つけられたマンソンは暴走することになる。ファミリーの女性達に絶対服従を誓わせたマンソンは、ハルマゲドンを生き残るためと称してファミリーにナイフを使った戦闘訓練を課す(ついにオウム化したようだ)。そしてマンソンの殺人マシンと化した彼女たちがついに事件を起こす。

 1969年8月8日深夜、ロサンゼルス高級住宅街のテリー・メルチャーの家にファミリーの男1人、女3人が押し入る。しかしこの時には既にテリー・メルチャーは引っ越しており、家にいたのは女優のシャロン・テートと3人の友人だった。しかし4人は躊躇せずに被害者をズタズタに引き裂いた。マンソンはさらに翌日には全く無関係の老夫婦を惨殺させた。

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被害者のシャロン・テートは結婚して妊娠中だったという

 

逮捕されたところから始まるマンソン劇場

 高級住宅街が恐怖に震えた4ヶ月後、マンソンは逮捕される。しかしその動機は今ひとつハッキリしていない。ただここからいわゆるマンソン劇場が始まる。実行犯の女性達は楽しげに歌いながら連行されたりなど、典型的な狂信者に見られる「いっちゃってる」状態、またマンソンは額にXの傷をつけて法廷に現れたり、裁判官に飛びかかったりなどの大騒動を起こしてそれが社会に格好のネタとなる。裁判の不当性を訴えるマンソンに対して、自らは手を下していないマンソンを擁護する声なども保守的な社会に対する反発として若者の間から上がったという。

 これに対して思いもかけない動きが出る。なんとニクソン大統領が「マンソンは有罪になるべき」という裁判に圧力をかけるとも取られかねない発言をする。法と秩序の回復を訴えるニクソンにとっては、保守派の支持者に対してアピールする格好の材料と考えて、支持率だけを考えての行動だという。これに対してマンソンはわざとニクソンの発言を報じた新聞を法廷内に持ち込んだという。陪審員は公正な判断のために世間の声に触れないのが大原則なので、意図的にそれを妨害して審議無効に持ち込もうとしたのだという(基本的には馬鹿なはずなのに、妙なところで知恵が回るのは誰かが入れ知恵したか?)。

 9ヶ月半に及ぶ裁判の結果、マンソンと実行犯の女性3人には死刑判決が下る。狂信者の実行犯達は誇らしげに笑顔なのに対し、マンソンは「巻き込まれた」という類いの愚痴をぼやいていたらしい。マンソンは死刑判決を受けたが、翌年にカリフォルニア州が死刑制度を廃止したことから、終身刑となったという。で、獄中インタビューで相変わらずのマンソン劇場を展開したそうだが、受刑者仲間には「こんなはずじゃなかった、失敗した」という類いの愚痴もこぼしていたという。どれが本当のマンソンかは誰にも分からない。もしかしたら本人も分かっていなかったかも。

 

 不可解な魅力がと言うが、私にしたらこのクソ男のどこに魅力があるかは理解不能。ハッキリ言って本人が眼前にいたら「このクソ俗物が!」と顔面ストレートの一発ぐらいぶちかましたくなるぐらいの胸くそ案件である。典型的なカルト教団の自滅のパターンを踏んでおり、オウムやこの番組でも以前に扱った人民寺院事件、さらにはいずれはその後を追いそうな現役の某新興宗教などが頭に浮かぶ。

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 マンソン自身がこれまたこれらの教祖の典型的なパターンで、以上に自愛心が肥大化した人格障害者。反社会性人格障害は当然のこととして、彼の場合は演技性人格障害の要素がかなり強い。恐らく人目を極度に気にするチキンなので、人の前に立つと相手が求めるようなパフォーマンスをせずにはいられないのだろう。裁判でのマンソン劇場などは、世間に注目されたがゆえにそれに答えようとしたパフォーマンスそのものであり、彼にとっては一世一代の見せ場のつもりだろう。もし全く何も注目されず、淡々と裁判が進んだら存外普通の犯罪事件で終わってしまっていた可能性もある。

 心の弱さにつけ込まれた狂信者が出るのも毎度のことで、マンソンの支持者が出るのも、あの抵抗できない小学生に斬りつけたヘタレの宅間や、モテない鬱憤で秋葉原で刃物を振り回したキモオタ加藤にまで支持者がいたことから、一定のそういう連中が出るのも予想は付く。京アニに火を付けたキ○○イ青葉については、彼の凶行の対象がアニメスタジオという聖地であったことから目下のところは彼を支持する声を見かけないが、それでも処罰が長引いたら支持する連中が出てこないとも限らない。

 どちらにしてもこういう胸くそが悪くて仕方ない事件を起こすのも人間の性質。心理学的には彼の異常に肥大化した自愛心は、幼児期に母親に否定されたことによる傷ついた自尊心を守るためのものであるということは容易に説明は付くのだが、そのことが全く救いにならないというのが現実。実際には彼のような「患者」を癒やすのにはかなりの時間と、周囲の献身的な対応が必要になるので困難といわざるを得ない。彼は擬似的な家族を作ることで自らを満足させようとしたのだが、結局はそのようなものでは彼の本心を納得させることは出来ず、結局は社会と折り合いがつけられずに破綻したということ。

 今でも小者ながら、目立つために犯罪起こすような馬鹿チューバーは、精神的にはマンソンの追従者と言える。彼らも何かのきっかけで先鋭化したらマンソン化する素養はある。

 

忙しい方のための今回の要点

・子供の時に母親に捨てられて荒んだ20代を刑務所で過ごしたチャールズ・マンソンは、32才で出所した後、ヒッピー文化の中に入り込むことになる。
・マンソンは家出少女などの心に彼女たちのコンプレックスを利用して巧みに入り込み、自らの崇拝者として20人ほどの少女と数人の男を含むファミリーを形成する。
・マンソンは音楽で生計を立てることを考えていたが、プロデューサーによって才能がないことを指摘され頓挫する。この頓挫からマンソンは先鋭化し、ファミリーの女性達に絶対忠誠を誓わせて戦闘訓練を施し始める。
・マンソンのファミリーの女性3人は、マンソンの指示で音楽プロデューサーのテリー・メルチャーの屋敷に押し入るが、既にテリー・メルチャーは引っ越していた。彼女たちはそこにいた女優のシャロン・テートと3人の友人を惨殺する。
・逮捕された実行犯とマンソンは裁判にかけられるが、実行犯の女性達は裁判中に歌を歌ったり、マンソンは裁判官に飛びかかったりなどのパフォーマンスで全米で話題となり、ついにはニクソン大統領が「マンソンは有罪になるべき」と声明を出すという異常事態になる。
・マンソンは結局は死刑を判決を受けた後、死刑の廃止で終身刑となるが、生涯獄中インタビューでマンソン劇場を繰り広げたとか。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ極論すれば「目立つためには手段を選ばない」という奴の究極進化形とも言えます。今の時代にはそういう奴が増えているというのが懸念されるところ。マンソンも「音楽で一発当てて逆転人生」と考えていたようですが、そういう安直な逆転人生考えている奴が、自称ユーチューバー周辺にやたらに多い。ちなみに少し前だったら、そう言う連中は大抵「自称作家」「自称画家」「自称アーティスト」ってところでした。

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