コロナで旅の型式が変化しつつある。今まで海外旅行などをしていた者が、それが出来なかった代わりに参加したりしているのが近郊のバスツアーなど。定員の半分のバスで郊外の農場を訪れて、そこでメロンを堪能したり、かなり豪華な昼食をソーシャルディスタンスを保った状態で頂くという企画。また西武鉄道ではアクリルの間仕切りつきの食堂車で、グルメランチを堪能しながらゆっくりと3時間をかけて、この夏で閉園が決まったとしまえんを訪問するなんて企画も売り出しているとか。
歩行を助けるロボットで石段もスイスイ
コロナで今までような観光客が見込めなくなり、どこの観光地も国内や近場の客を集めようと四苦八苦している。そんな中で新しい技術で新しい観光の方法を提案しようとしている会社がある。
奈良市のベンチャー企業ATOUN。ここは重量作業などをサポートするパワードウェアを開発している企業である。玄関にいきなり展示されているのは、こいつでエイリアンと戦おうとでも言うのかというようないかつい機械。こんな会社が何を?と思うところだが、同社が現在開発を手がけているのは、高齢者など歩行に自信のない人をサポートする簡便なロボット。「HIMICO」と名付けたこの着るロボットは、腰に取り付けてワイヤでひざの上げ下げをサポートするという簡単なもので2キロ程度の重量。これが歩行のペースなどを分析して、歩行をサポートしてくれるというのである。4月に50代以上の女性に吉野で実装テストをしてもらったところ、普段なら息が切れてとても登れないと思うよな階段もスイスイ。体験者は効果を実感したようである。
良好なテスト結果を受けて、同社ではワイヤーの耐久性を高めるなどの改良をさらに加えて近畿日本ツーリストと提携して次に売り込みに動いた先は琴平町。琴平市の観光名所である金比羅宮は長い石段で有名。昔は足腰の弱い人のための石段かごが存在したが、これも担ぎ手の高齢化で今年の1月になくなったという(これは知らなかった)。それでHIMICOを観光案内所などにおいてもらって、高齢者などに使用してもらおうという考え。同社では琴平町町長の下に。当初は胡散臭さを感じていた町長だが、実際に装着してテストしてみるといかにも運動不足そうに見える町長が軽々と石段を登っていく。この効果に感心した町長は早速観光協会の会長に声をかけて導入の話が進んでいく。
未来型電動車いすで空港内を楽々移動
那須ハイランドパークでは電動車いすWHILLの貸し出しを行っている。足を怪我した人や高齢者も家族と一緒に楽しめるということを目指しているのだという。
このWHILLの開発を行ったのが会社名もそのままの「WHILL」。同社ではこれを未来型車いすとしており、単に足腰が不自由な人のものというだけでなく、未来の新しい乗り物の一つとして位置づけている。2012年に創業したベンチャーだが、今では世界12の国と地域で販売しており、従業員も約200人いるという。WHILLは1台45万円で最高速度は6キロだという。レンタルも可能とのこと。技術的に興味深いのは非常に小回りが利くようになっていることと、高さ5センチぐらいの段差なら越えられるようになっていること。当然運転免許は不要。現在高齢者がよく使っているラクーターよりも取り回しが楽そうである。
同社ではこれを羽田空港に導入することを考えている。実際にこの空港を使ってみると、とにかく長距離を歩かされることに辟易するのだが、同社では保安検査場から搭乗ゲートまでの移動にWHILLを使ってもらおうと言うこと。ただしここでは動線が一方通行なので、そのままだと搭乗ゲートに溜まった車いすを戻してくる必要がある。そこで鍵となる技術が、搭乗ゲートで客を降ろした車いすが自動で保安検査場に戻ってくる自動運転技術の開発。最初に同社が羽田空港でテストしてみたところ、帰りの自動運転は客に向かって突進していったり、壁に向かって一直線に体当たりしたりと散々なもの。技術者は多くの宿題を持ち帰って奮戦することになる。
その後、コロナで空港施設が閉鎖されたりなどのドタバタもあったが、大学でロボット工学を勉強していたという技術者が奮闘、5月1日の採用テストでは自動運転で保安検査場と搭乗ゲートの間を問題なく往復(人が突然飛び出してきた時の自動停止なんかも確認)、正式導入が決定され、7月1日から実用が始まった。羽田空港ではお客の反応を見ながら適用エリアを増やしていく予定。またWHILLには海外の巨大空港からの問い合わせも来ているという。
かなり興味深い技術ですね。私は以前から電動車いすは単なる障害者のためだけでなく、個人用の屋内移動の乗り物として使えるのではと考え、まさに羽田空港を延々と歩かされた時に「こんな時に電動車いすを使えないのか」と思っていたのでドンピシャである。こういう風にアイディアを実際に技術で解決してビジネスにつなげていくというのは重要です。後は気になるのは走行可能距離。それとあの構造だと手荷物ぐらいは積めても、機内持ち込みサイズのキャリーとかは運べないとみた。キャリーを引っ張れるような人は自分で歩けということか?
HIMICOの方も興味はありますね。これで気になったのは、石段とか坂道とかの一定のペースと歩幅で歩けるところは良いが、山道など歩幅やペースが一定でない場所では対応が可能なのかというところ。それが対応できるのなら、70才過ぎても山城に登れそうなので大いに興味あります(笑)。実のところ、最近は脚力の低下でひざが上がらなくなっているので、このままだといずれは山道を歩けなくなるのではと思ってたので(完全に私もジジイだな)。ただ構造上、下りの時は自らの足で踏ん張るしかないようです。山城攻めでは重大な事故は登りよりもむしろ下りで起こりやすいことを考えると、やっぱり機械に全面的に頼るのは無理か。ただひざへのダメージという点では下りの方が圧倒的なので(翌日にひざがガクガクというのは、実は登りのダメージよりも下りのダメージの方が多い)、これを軽減するメカニズムは何とか出来ないのかというところ。
忙しい方のための今回の要点
・作業補助用パワードウェアの開発を行っている奈良市のベンチャー企業ATOUNでは、歩行に自信がない高齢者などの歩行をサポートするHIMICOという軽量ロボットを開発した。
・HIMICOを使用すれば階段上りなども楽になるので、近畿日本ツーリストと提携して琴平市への売り込みを行い、町長によるテストの結果、上々の感触を得た。
・電動車いすを開発しているWHILLでは羽田空港の保安検査場と搭乗ゲートの間を電動車いすを自動運行するテストが行われた。
・当初はトラブルもあったものの、技術改良の結果採用試験を見事にパス。正式導入が決定された。同社には海外の巨大空港からも問い合わせが来ている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・「新しい旅の形」と銘打った内容でしたが、実際のところは移動をサポートする新技術というところでしたね。ちょっとイメージしていた内容と違ったな。表題通りだったのは冒頭のとしまえんのくだりの辺りまで。もしかして最初はそういったお手軽近場ツアーの企画なんかの取材をして一本のつもりが、コロナのドタバタとかがあって材料が一本分に足らなくなり、別の企画を引っ付けたんではという気が。
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