教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

11/29 サイエンスZERO「被害ゼロを目指せ!台風予測の最前線」

台風の勢力を予測するのは難しい

 昨年は台風19号は急速発達して中心気圧が915hPaまで成長、東日本を中心に大被害をもたらした。一方、今年の台風10号は920hPaで九州に接近すると予測され、かつてない対応が取られたが、実際に接近した時には勢力が大幅に弱まり、幸いにも厳戒態勢は空振りに終わった。このような台風が強まるのか弱まるのかの予測はなかなか難しい。

 台風は暖かい海の上で水蒸気が雲になることから発生する。それが次々と水蒸気を取り込みながら成長するので、海の温度は台風の発達に大きな影響を与える。しかしこの海水温の測定というのが実は困難である。だから台風の進路の予想精度は上がっているにもかかわらず、台風の勢力の予想は困難である。

 今年の台風10号は920hPaで上陸すると予想されていたが、実際には945hPaまで大幅に弱まった。これは先に通過した台風9号によって海がかき回されて、海面水温が低下したことが原因であるという。

 正確な予想のためには水面だけでなく、深度100メートルまでの海水温を知る必要があると言う。これを独自の方法で試みているのが琉球大学の伊藤耕介准教授。彼は海水温が上がると海水が膨張して水面が上昇し、下がると水面が低下すると考え、海水面の高低差を調べることで海の水温を推測できるという。この原理を用いて実際の台風の勢力シミュレーションを行ったところ、気圧の変化の予想が実際の値により近づくことが確認されたという。

 

台風の目に突入しての直接観測

 また予測が難しいのが台風の急速発達。昨年の台風19号もこれで被害が増加した。予測が難しい急速発達の謎に挑むのが横浜国立大学の筆保弘徳教授。過去37年間の900個の台風を分析したところ、フィリピンの東側で偏東風とモンスーンが衝突して出来た台風で、特定の海域を通過した事例が多いということが分かったという。

 また台風の勢力を判断するのに重要な数字が中心気圧であるが、実際はこれを直接測定することは難しいため、雲の形態などから推測しているのが現状だという。これを直接に測定することも試みられている。台風の雲の中にチャーター機で突入したのだという。3年前に2日渡って大型の台風20号の雲に突入したのだという。当初は危険を避けるために目には入らない予定だったが、雲の壁の一部が弱いことが判明したことから、そこから目に突入したという。そしてそこに観測機器であるドロップゾンデを落下させて測定を行ったとのこと。その結果、衛星画像からは935hPaと推測しいた気圧が、実際は926hPaであることが分かり、また翌日の衛星画像では目が小さくなって勢力が強まったように見えたが、実際には勢力はほとんど変わっていないことが判明したという。目の中心にある暖気核と呼ばれる台風の勢力を強める部分には変化がなかったのに、目が小さくなったのは目の上に庇のような雲が迫り出してきたせいだったとのこと。

 このように直接観測することによって分かることが多いのだが、台風が来る度に有人飛行機を飛ばすというのは困難であるので、無人機を使用してゾンデを投下するということも検討されているという。ちなみにこのゾンデは生分解性の材料を使用されており、海洋汚染にも配慮してあるとのこと。

 また温暖化の進行でスーパー台風が発生することが予測されているが、台風を人工的に弱める研究もなされている。シミュレーションから編み出した一つの方法は台風の上空を水素エンジンを搭載した飛行機を巡回させ、水素エンジンから出た水を台風上空に排出して雲を重くしての位置を下げることによって台風を弱めるという方法が可能であることが分かったという。

 

 以上、台風の研究について。中心気圧がまさか推測値だったとは私も知らなかった。確かに衛星からの測定では気圧は分からないし、嵐の真ん中に探査船を出すわけにも行かないし、飛行機を飛ばすわけにもいかないのだから仕方ないか。将来的には携帯電話の基地局として利用しようと考えられているソーラーパワーの無人機などを利用すると言っていたが、その飛行機で台風に突入できるパワーがあるんだろうか? プロペラ機のようだから、台風の遥か上空を飛行してそこからゾンデを落下させるというのも困難な気がするし?

 なお台風の進路予測はかなり精度が上がったと言ってましたが、これは気象衛星の発達が大きいでしょう。今や台風は赤道付近で発生した時点から察知されてますので、昔の富士山レーダーが頼みだった頃は、日本近海に到達して初めて台風の接近が分かってましたから(それ以前の情報は航海中の船舶などからの情報が頼り)。その頃に比べると劇的に進歩したものです。将来的には台風での死者をゼロにすると専門家が豪語してましたが、是非ともそれを実現してもらいたいものです。もっとも死者がゼロになっても、それによって家屋などの被害が出た時に政府が無策だったらそこからの死者が出るので、どうしようもない政府を何とかする必要もありますが。

 

忙しい方のための今回の要点

・台風予測については進路予測の精度は向上しているが、勢力の予測は未だに難しい。
・台風の勢力を予測するには海水の温度データが必要だが、その測定が難しい。そこで海水面の高弟からそれを推測する研究がなされている。
・また急速発達する台風も予測が難しいのだが、特定の海域で急速発達が起こりやすいことも分かってきた。
・さらには飛行機で台風の目に突入しての観測を行ったところ、衛星からの予測と実際の気圧が異なることなどが分かったという。
・将来的には水素飛行機で雲の上に水をばらまいて、台風の勢力を弱めるなどが出来るのではないかとシミュレーションされている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・とにかく日本は台風とか地震とか天災の多い国なので、その研究は世界でも最先端だと言います。台風では東南アジアなんかも困っているので、それらの国に対しても助けとなれば良いですけど。

次回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work

前回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work