教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

6/4 テレ東系 ガイアの夜明け「ガンを早期発見!命を救うニッポンの技術」

胃がんをAIを使って発見する

 ガンの中でも胃がんは内視鏡などで診断するが、その時に問題となるのが医師の見逃し。集団検診などでは医師のダブルチェックをするようになっているが、それでも胃がんは判断が微妙であり、多くの内視鏡写真を人力でチェックする限り見逃しをゼロには出来ない。胃がんは早期だと内視鏡手術などで除去出来、予後も非常に良好であるが、もし見逃してさらに進行したら最悪は命に関わってしまう。そのような見逃しを防ぐためにAIを利用した診断サポート技術の開発が進んでいる。

 困難な胃がんのAIによる診断に取り組んでいるベンチャー企業が2017年設立のAIメディカルサービス。コンピュータに胃がんの写真を大量に取り込むことによって、AIのディープランニングによって胃がんの特徴を把握し、患部の写真から胃がんの可能性を判断することが出来るシステムである。CEOの多賀智裕氏は自身がクリニックを開いている医師でもある。胃がんは大腸ガンなどと違って患部が実に微妙であり、画像での判別が困難なのであるという。同社では東京大学など多くの病院と連携して胃がんのデータを大量に集めてコンピュータに取り込むことを行った。

 日本医科大学の内視鏡の権威である貝瀬満特任教授の下でシステムの試験が行われることとなった。貝瀬教授はその能力に納得、臨床試験に協力してくれることになった。

 

さらにもっと難しい食道ガンの診断システムにも挑戦

 同社ではさらに診断が困難である食道ガンの診断システムに現在取り組んでいる。食道ガンの診断はさらに困難なのだという。目標は専門医と同レベルの80%の診断率。しかしテストでは70%前半の診断率しか出ず、まだまだ不十分と判断される。食道ガンは胃がんに比べて患者数が少なく、データが少ないのが問題であると言う。そこで多賀氏はがんセンターにサーバを持ち込み、内視鏡に接続して高画質のデータを入手することにする。データ数の不足を質で補おうという考えである。これを元に精度を上げたところ、半年で80%の精度を達成、臨床研究が実施されることとなった。実際に医師が判断に困るような患部も問題なしと判断、その後の細胞検査でも問題ないことが証明される。テスト結果は上々であり、2年後の実用化を目指している。

 

涙一滴で乳がんを診断する

 女性の死亡原因で多いのが乳がん。早期に発見すれば10年生存率は99.1%になるという。しかし発見が遅れると命を失ったり、乳房を除去することにもなってしまう。現在はマンモグラフィーが診断法として存在するが、乳房を挟んで押しつぶすために痛いと不評で、受診率は頭打ちになっている。この乳がんを涙を1滴取るだけで診断出来るシステムの開発を進めている研究者がいる。

 その原理は身体の細胞が連絡に使うエクソソームという物質を使用し、そこからがん細胞に固有の物質を見つけるのだという。取り組んでいるのは神戸大学の竹内俊文氏。乳がんに特有のエクソソームを見つけることで乳がんを発見出来るのだという。

 3月25日、神戸大学を定年退官した竹内氏は特命教授として大学に残って研究を続けることになった。しかし臨床研究に向かうに当たって研究費用の捻出が課題となった。3年で費用は4000万円必要と見積もられているが、当面の費用として1000万円が必要であるという。その資金がないと研究が頓挫してしまう。

 そこで竹内氏は資金募集をクラウドファンディングで行うことに。しかし3ヶ月の期限が近づいてきたが途中から寄付が頭打ちとなって目標額に届かない可能性が。一計を案じた竹内氏はYouTubeの生番組に出演して研究の意義を訴えて寄付を募ることに。結局はこれが功を奏したか、締め切り時には900人から1200万円の寄付が集まり、竹内氏は胸をなで下ろすことに。

 

 以上、ガンの診断に取り組む日本の研究者について。実際に検診での医師による見逃しというのはどうしても人間である以上起こりえることなので、それをAIでサポートするというのは極めて重要な技術であると言える。これの精度が上がってきたら、AIを使っての検査の自動化という将来像も見えてくる。

 またマンモグラフィーが女性に不評というのは以前から問題視されており、もっと気軽な検査方法は求められていた。そういう意味で竹内氏の手法は手軽さでは圧倒的なので開発成功を祈りたいところ。問題となるのは診断精度だろう。またこれが上手く行くようなら、他のガンにも拡張を期待したい技術でもある。乳がん以上に検査が行いにくいガンも多々あるので。

 

忙しい方のための今回の要点

・AIを用いて内視鏡映像から胃がんを見つけ出すシステムの開発に挑んでいるベンチャー企業がある。CEOの多賀智裕氏は自身もクリニックを運営する医師である。
・実際に患部のデータを多数取り込むことで、AIのディープラーニングで胃がんの特徴を捉え、80%の精度で診断するシステムを開発、実用化目前となっている。
・同社ではさらにより診断が困難な食道ガンの診断システムの開発を行っており、こちらも2年後の実用化を目指している。
・乳がん検診はマンモグラフィーで行うが、痛いと女性に不評で受診率は頭打ちとなっている。そこで神戸大学の竹内俊文氏は涙に含まれる化学物質から乳がんを診断するシステムの研究を行っている。
・竹内氏は当面の臨床実験用の予算の1000万円を確保するためにクラウドファンディングで寄付を募集、自身もYouTubeの生番組に出演するなどでアピールした結果、何とか目標額を確保することに成功した。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・ガンの診断は未だに医師の経験などの面が大きいといいますし、とにかく集団検診などではデータが大量になるので医師の身体的負担も半端でなくなります。そういう点でAIには期待大なんですが、これがドンドンと進歩してくると、いずれは「医師の存在価値は」という問題もまた出てくるような気はします。
・実際に自動診断システムと同時に自動手術システムの開発も進んでますので、これらが組み合わさると医師は不要ということになりかねない。まあいずれその問題は表化する時が来ると思います。

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