教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/19 サイエンスZERO「限界を超えてゆけ!"ダイヤモンド半導体"開発最前線」

大電力に強いダイヤモンド半導体

 今回は次世代型の半導体として期待されているダイヤモンド半導体。特に大電力のコントロールに長けているとされる。シリコンのものに比べると能力は5万倍になると推測されていたが、今までは技術的に開発が困難だったのだという。その研究の最前線を紹介。

 シリコン半導体はシリコンの結晶にリンなどをドープすることで製造されるが、シリコン半導体は大電流だと壊れてしまうので、1平方センチ辺り10メガワットが扱える最高値であった。ダイヤモンドは結晶がもっと硬いことから、耐熱性が大幅に向上すると推測できたという。ダイヤモンドを半導体にする時のハードルはドーピングの困難さだという。しかしダイヤモンドの基板を空気にさらしていると、なぜか半導体になるという現象は以前より知られていたという。佐賀大学の嘉数誠教授はこの現象の謎の解明に挑んだ。その結果、朝と夕方になると電流が流れやすくなるということに気付いた。そこから排ガス中の二酸化窒素が可能性として浮上したのだという。二酸化窒素が表面に吸着すると、炭素から電子を奪うことで空孔ができて導電性が発現するのだという。ちなみにこの現象は半導体用ダイヤモンド(表面に水素原子が付いている)に固有で、天然のダイヤモンドには起こらないとか。

直径1センチのダイヤモンド半導体
出典:佐賀大学HP 

https://www.sao.saga-u.ac.jp/admission_center/ouensite/research/01/

 

 

実用化に向けての課題解決と今後の応用

 さらにダイヤモンド半導体を実用化する当たっての問題となったのは、大きな基板を造ることが難しいという点。実際に基板サイズは4ミリとかで、シリコンの10センチとはかけ離れたものだったという。基板サイズの解決のブレークスルーになったのは、某人工宝石メーカーから持ち込まれた基板とのこと。そこでは基板を成長させる土台としてサファイアを用い、サファイアとダイヤモンドの層の間に柱状のダイヤモンド層を入れることで冷却時の歪みによる割れを防いだとか。それを用いて嘉数教授が半導体にしたところ、875メガワットというダイヤモンド半導体の新記録が出たという。17万5千世帯の電気をコントロール出来る性能だという。なお当時は8ミリだった基板が、現在は5センチにまで進化したとのこと。この5センチの基板を半導体にしたら埼玉の電気をすべてこれでコントロール出来るとか。

 番組では「人工宝石メーカー」とぼやかしましたが、どうやらこちららしいです。

orbray.com

 さらにダイヤモンド半導体は放射線に強いという特性があるという。この性質を使用して放射線検知のセンサーなどへの応用も研究されている。ダイヤモンドは原子の結合が強いのでシリコンのように破壊されることがないのだという。宇宙線の中で使用される宇宙での応用なども期待されているという。シリコンが適用できない部分に適用できる新素材として今後の開発が望まれるとのこと。

 

 

 最新半導体としてのダイヤモンド半導体についての報告。なお化学屋である私は「硅素で半導体が作れるんだったら、それよりも一周期上の炭素でも作れるんじゃね?」ってのは実は随分昔から全くのド素人考えとして思ってたんだが、いよいよそれが実用化が見えてきたということのようで興味深い。ちなみに硅素と炭素については「炭素が生命体の核になるんだったら、硅素を中心にした生命の形も考えられるんじゃね?」ってのも同じく昔から全くのド素人考えとして持っているのだが、そっちの方はそう簡単でもない模様である(以前に「コスミックフロント」で硅素と炭素は性質が違いすぎるから硅素で有機物のような化合物を創るのは困難って話があったな)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・現在のシリコン半導体では扱えない大電力を扱える新素材としてダイヤモンド半導体が注目されている。
・ダイヤモンドは原子の結合が強いので、シリコンが破壊されるような条件でも耐えるが、その代わりに電気を通すようにするドーピングが難しいという問題があった。
・しかしダイヤモンド基板に二酸化窒素を吸着することでダイヤモンドが導電性になると言うことが発見された。
・また今までは大きな基板の作成が困難だったダイヤモンドについて、今では最大で5センチの基板が作れるようになっている。
・ダイヤモンド半導体は放射線での破壊に強いため、放射線センサーや宇宙での活用も期待されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・ダイヤモンドって素材としてはなかなか面白いんですよね。どちらかと言えばその剛性を活かした方法が中心でしたが、電気的素材としても使用できるというのは実に興味深い。

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