教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/28 NHK-E サイエンスZERO「未来をつなぐ!"トンネル技術"最前線」

山岳トンネルの工法

 今回はトンネルの建設技術の紹介。日本の国土はトンネル掘削が難しいことから、日本のトンネル技術は世界でも最先端なのだという。

 まずトンネルの掘削にはシールドマシンを使用するシールド工法、トンネルの筐体自身を地面に埋める開削工法、海底トンネル用の沈埋工法などがあるという。そして今回注目するのは山に穴を開ける山岳工法

   重機類はこちらのHPで多数紹介されている

www.furukawarockdrill.co.jp

 番組では井上咲楽氏が新東名高速道路の高松トンネルの現場をレポートしている。全長2.9キロになる予定のトンネルの最先端部である切羽では、突然に複数の腕を持つ巨大なロボットめいた機械が登場。これはドリルジャンボという装置だそうな。これは爆薬を入れるための穴を開ける機械らしい。そして100キロの火薬を穴に詰めると発破一発でドカンと穴が開くという次第。後は重機が土砂を運び出す。そのためのトラックなどは幅の狭いトンネル中でも方向転換できるように工夫されている。そして次にマルチエレクターなる装置が登場して2本の腕で支保工と呼ばれるトンネルを支える500キロの鉄骨を取り付ける。そしてさらにコンクリートの吹きつけまで行うとのこと。さらにトンネル壁には4~5メートルのロックボルトを打ち込んで土圧に耐えるようにするのだという。この工法はNATMというそうな。

NATM(New Austrian Tunneling Method)
出典:公益社団法人土木学会HP

 

 

トンネル工事の安全性を確保するための技術

 なお日本のトンネルは地層が複雑であることから難易度は高いという。そこで地質探査の最新技術が導入されている。高松トンネルも地質を調査すると、硬い岩石から脆いものまで様々な岩石からなっている。中でもタチが悪いのは断層破砕帯という地層で、これは地層の境目で岩石が砕けているところで、掘ったらバラバラと崩れてきたりするのだという。また緑色凝灰岩は水をかけると溶けてしまうというタチの悪い性質を持っており、これが地下水とぶつかったりしたらとんでもないことになるという。だから事前に水脈を調べる必要があり、爆薬を使ってその地震波の反射から水脈を察知、事前に水を抜いたりするのだという。また断層破砕帯などの崩れやすい地層には事前に凝固剤を注入することで崩落を防ぐのだという。

 さらに未来を目指した研究として、カミオカンデの近くでテストされているのが2ブームロックボルト自動施行機。NATMに不可欠のロックボルトを自動で打ち込む機械だという。熟練技能者の技術を機械で再現するようにしたのだという。安全確保のために、将来的にはトンネル工事の全ての自動化を目指している。

 また現行のトンネルのリニューアルの技術も進んでいる。昔の木材を用いた矢板工法で作られた古いトンネルである蔵間トンネルは最新の技術で広くて丈夫なトンネルにリニューアルされた。工事中も車が通行できるようにして工事したのがポイントだとか。また矢板工法で作られた古いトンネルである柏崎の米山トンネルは2007年の新潟県中越沖地震で路面が膨らむなどの被害が出たことから床面の補強などのリニューアルがされたという。

 

 

 以上、トンネル建設最新技術について。昨今は都会の地下鉄なんかは軒並みシールド工法が取られていることが多いようだが(一部では開削工法も使われるが、東京のように地下が混雑するとそれは不可能)、山岳トンネルはシールドではないというのは恥ずかしながら初めて知った。大昔の作業員がツルハシ振るっていた頃からはかなり進化したが、それでもやっぱり発破でドッカンか。基本の基本はノーベルがダイナマイト発明した頃から変わっていないようである。まだまだ危険が一杯である。

 なお工事を自動化することを安全性の面から進めているという話もあったが、トンネル工事作業員は爆薬から重機まで扱う多技能工だと言っていたことから、恐らく人材確保が相当に大変になってきているのだろう。それでなくても絵に描いたような3K職場なので、わざわざ志願する若者も少なかろう。だから自動化というか省力化が主眼だと思われる。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・日本のトンネル建設技術は世界トップ水準である。
・山岳トンネルはドリルジャンボという大型機械を使って発破で掘削する。またトンネルを支える鉄骨(支保工)はマルチエレクターでセットするが、土圧に耐えるためのロックボルトは未だに職人の熟練の技で打ち込まれている。
・日本の山は地質が複雑で、崩れやすい断層破砕帯や水に溶けてしまう緑色凝灰岩などがあるので、事前に地質の調査が不可欠。爆薬を使った衝撃波で地層を調査する。
・ロックボルトの挿入を自動化する機械の開発も進んでいる。
・一方で現行のトンネルのリニューアルも随時進められている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・毎回結構地味な技術に焦点を当てるこの番組ですが、今回も地味だわな。重機とかは好きな奴なら萌えるんだろうが。

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