教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/24 BSプレミアム ヒューマニエンス「"目"物も心も見抜くセンサー」

実は人間の色覚は大きな個性があった

 目と言えば視覚を司る人間の感覚器官の中でも重要性が高く、非常に精密に出来ている臓器である。しかし目には単に視覚器官というだけにはとどまらない大きい意味があるのだというのが今回。

 まず人間の目は色の識別が可能であるが、これは実は脊椎動物と節足動物に特徴的な物なのだという。しかし実はこの色覚が人によって実は異なるという。色を判別するには色覚のセンサーが2つ以上必要であるが、人間はこれを3種持っている。しかし実はこの色覚というのが個人差が大きいことが分かってきたのだという。かつては特定の色を見ることが出来ない人を検査で見つけて「色盲」と言って障害扱いをしていた。しかしこの検査は現在は廃止されているという。それは実は人の目にはかなり個性があることが分かってきたからだという。そして実はこれが人類の繁栄に結びついているのではという。

 色覚を司る錐体細胞と言われるセンサーだが、人類は3種持つとされているのだが、これが2種の人が少なくないという。その上にこの一つ一つのセンサーにも違いがあり、どのようなセンサーを持つかによって色の見え方が代わってくるのだという。センサーは一般的に赤と緑と青の3種があるとされているのだが、実は赤と緑が混ざったタイプとかも存在するのだとのこと。このような差は実は連続的に存在し、非常に多様なのであるという(つまりは検知波長が人によって差があるということなんだろう)。

 では2色型の人にはどのように見えるかだが、例えば葛飾北斎の赤富士などは青と緑の2色型の人には山は緑ががった灰色に見えているという。実はゴッホなどもこのタイプの色覚だったのではとのこと。実際の2色型と3色型の割合は、典型的な2色型が1割弱ぐらい、典型的な3色型が5割前後で、後は2色型と3色型がシームレスでつながっているのだという。結局は色覚にはスペクトラムになっているということで、これは以前に言っていた性のスペクトラムを連想させる。

 

2色型色覚が存在する理由

 では人の色覚がなぜこのような多様性を持ったか。それは進化の歴史が絡んでいるという。かつて人類の祖先が海中で暮らしていた時は色覚は4色型だったという。4色型で紫外線までカバーされていたのだという。それが陸上に上がってネズミのような姿になった時には2色型になる。夜行性のために暗闇への対応の方が優先されたのだという。そしてこの名残で今日でもほとんどの哺乳類は2色型だとのこと。それがサルのように進化して森で暮らすようになると3色型になる。それは赤い木の実を見分けたりするのに有利だったからだという。しかしこれが森を出て平原に降りた時にまた変化する。草原の中に潜む獲物や敵を見分けるには、色で攪乱されない2色型の方が有利なのだという。だから群れの中に2色型の色覚を有する者がいる方が有利になり、3色型と2色型が混在することで生存競争で生き残れたのだとする。実際にサルの研究によると、2色型のサルの方が昆虫を捕まえる能力が高いという。

 

コミュニケーションにも重要な目

 さらに目はコミュニケーションにも大事な働きをしている。生後18ヶ月前後の幼い子供の前に色と形が違う物を2つ置き、その前に実験者が座り一方には笑顔を見せ、一方には嫌な顔を見せるということをする。そして子供に手を出すと幼児の87%が笑顔を向けた方の物を渡したというのである。つまりは幼児が明らかに視線から感情を読み取っているのだという。

 なお人がこのようにコミュニケーションに目を使えるのは、霊長類の中で人だけが白目の露出部分が多く、しかも白という目立つ色をしているからだという。実際、人間以外のチンパンジーなどは白目(強膜)の色が黒い。さらに白い強膜を持つ犬や馬などは強膜のほとんどが隠れている。これは視線が分かりにくい方が天敵などに遭遇した時に動きが予測されにくいからだという。

 ではなぜ人類はあえてそのような不利な形に進化したのかだが、霊長類の目の幅による強膜露出度を調べたところ、群れのサイズが大きい霊長類ほど強膜露出度が大きいという相関関係があることが判明したという。群れの中でのいざこざを減らすための方策として、霊長類では毛づくろいが行われる事が多いが、これは群れが大きくなると時間がかかるので困難となる(ヒヒは生活の20%を毛づくろいに費やしているとか)。そこで人はそれに代わって視線をコミュニケーションに使用しているのだという。これを「ゲイズ・グルーミング」と名付けているとのこと。目と目を合わせることで毛づくろいの代わりに関係を維持できるようになったのだという。実際に人は視線を合わせるだけで幸せホルモン・オキシトシンが分泌されるという。さらには「見つめ合ったその日から、恋の花咲くこともある(古いな)」なんてことまである。

 

視線の力を活用した演説の達人達

 またこのような視線の力を最大限活かしているのがいわゆる「名演説家」と言われる人々だという。特にオバマなどは頻繁に左右に視線に飛ばしており、これは計算された高度なテクニックだという。さらには視線を向けてから語り出すということを行っており、このことによって相手に話の内容が伝わるのだという。

 これは非常に良く分かる。プレゼンの基本テクニックである。ただまともに見過ぎると不自然になって逆に伝わらないと藤井アナが言っていたのはさすがにプロ。まともに見つめすぎると今度は圧が強すぎてプレッシャーがかかるので話の内容がそっちのけになってしまう。だから正面からカメラを凝視する井上あさひのニュースは中身が入ってきにくいのである(笑)。藤井アナが時々意図的に視線を外すといっていたが、これは重要なテクニック。実際にプレゼンの上手い人は視線の使い方が上手い。私も仕事柄プレゼンの機会は多いので、この視線の使い方には注意している。ザッと会場内に視線を飛ばして、特に眠たそうにしている奴には凝視する(笑)。また視線で一渡りプレッシャーを与えてから、急に抜くことで相手を引き込むというテクニックもある。プレゼンに不慣れな人は視線が落ち着かずに宙を彷徨うから聞いている方も何となく落ち着かなくなるのである。ちなみにリモート会議が何となくやりにくいのはこの視線の問題があるというのはガッテンでも言っていたところ。

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日本人は目で感情を読み取る

 さらにこの視線のコミュニケーションには文化の違いもあり、特に日本人は目から感情を読み取ることが多いのだという。

 それが端的に現れているのが顔文字だという。日本の顔文字は
(^_^)(>_<)(*_*)(;_:)(@_@)
などすべて目で感情を表現しているのだが、これがアメリカでは通じないのだという。

 アメリカ人の顔文字は
:)  :(  :>  :<  :P (いずれも90度回転させて見る)
など全て感情を口で表現するものになっている。

 そこで実験として口が笑っているけど目が笑っていないなどの矛盾した顔文字を作って日米の学生に見せたところ、口だけが笑っているものは日米どちらでも笑顔として反応したのに対し、目だけが笑っているものは日本だけが笑顔と認識したのだという。

 感情を露わにしない日本人は、本音が出やすい目から感情を読み取る習慣が身についてきたのだろうという。これがマスクに対して日本人よりも欧米人が抵抗が強い理由ではないかともしている。そう言えば私自身も欧米の留学生と話した時、露骨に口角を上げる笑顔をしないと相手に伝わりにくいのは感じたことがある。これは実に興味深い。

 

 毎回毎回思いがけない観点を出してくるので、なかなかに興味を惹かれる(たまに「ホンマかいな」と疑問を持つこともあるが)この番組だが、今回もなかなかに面白かった。織田裕二氏が俳優という観点から目力について時々語っていたが、実際に目の演技が出来ない役者は役者以前である。昔から名優と言われる俳優は概して半端ない目力を持っている。

 目で感情を表現しない欧米人が逆に良く使う表現として眉を上げるのを紹介していたが、これは逆に目で物語る日本人はあまりしないジェスチャーである。向こうの映画を見ているとよく見る仕草だが、私の場合はスタトレのミスタースポックがすぐに思い浮かぶ。いつも片眉を上げては次に「非論理的です」と来ていた。ちなみのあの動作はミスタースポックのくせと言うことになっているが、実際は演じていたレナード・ニモイ氏のくせだったのだとか。また最近見た「アイ,ロボット」という映画のクライマックスで、敵に付いたかと思われたロボットが、主人公に以前に「俺を信じろという意味だ」と言われていた眉を上げる動作をして主人公に本音を伝えるシーンがあったのを思い出す(一番の見せ場ともなってます)。

 ところで色覚が人によって様々というのは結構衝撃的であった。そう言えば最近は以前のように色盲を障害と言わなくなったことは感じていたが、そこにそういう背景があったとは知らなかった。と言うことは私がよく見る美術作品も、見る人が変わったら全く違って見えていたりするわけか。ちなみに私はあまり色の違いに敏感な方ではないので(私の妹などはずっと色に鋭敏である)、実は3色型の中でも2色型に近い部類なのかも知れない。まあ人間の「個性」というのは思いの外幅広いのかも知れない。

 

忙しい方のための今回の要点

・人類は一般的に3色型の色覚を持っているとされるが、実は一定数の2色型の色覚の者がおり、かつてはそれは「色盲」として障害扱いされていたが、実は3色型と2色型の間に連続的に様々な色覚の個性があることが分かってきた。
・また2色型の色覚は人類が草原に降りた時に、草むらに潜む獲物や敵を発見するのに優れており、一方の3色型の色覚は木の実などを見つけるのに有利である。そのために人類は2色型と3色型が混在する形で生き残ったと考えられるという。
・さらに人類は白目が大きくて視線が目立つ目をしているが、これは視線によるコミュニケーションを行うのに有利なためであると考えられるという。
・実際に演説が上手いとされる人物は、この視線の使い方が実に長けているという。
・なお日本人は文化的に目から感情を読み取る傾向があり、これに対して欧米人は口で感情を表現する傾向があるという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・欧米人って日本人から見れば、極端な表情を作るのでコミュニケーションがオーバーって印象がありましたが、これは確かに表情の大きさ(ジェスチャーも大きいですが)がかなり影響しているようです。ちなみにプレゼンは基本的に欧米文化なので、表現は欧米式で行った方が上手く行きます。ですから私はいつもプレゼンの時にはスティーブ・ジョブズになったつもりで行います(笑)。
・これに対して日本的な「腹芸」の世界はまさに言葉には出さずに目だけで合図を送ったりします。まあこのコミュニケーションは欧米人でなくても日本人にも分かりにくい。

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